ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Woman in White” 雑感(1)

 本書は既報どおり、タイム誌が発行年順に選んだオールタイム・ベストミステリ100のトップを飾っている。
https://time.com/collection/best-mystery-thriller-books/
 しかしこのリスト、よく見ると、日本の推理小説ファンなら小首をかしげたくなったかもしれない。
 ただ、それは古典の選定にかんしてであって、近作についてはなんともいえない。ぼくはこのほぼ四半世紀、外国ミステリからほとんど遠ざかっているので、リストの後半ほど初耳のものが多い。
 例外的にたまたま読んだことがある今世紀の作品は、“Fingersmith”(2002 ☆☆☆★★★)、“2666”(2004 ☆☆☆☆★★)、“The Round House”(2012 ☆☆☆★★★)、“The Sympathizer”(2015 ☆☆☆☆)の五冊だけ。が、いずれもあらかじめミステリと認識していたわけではない。("Fingersmith"  以外は読後もその認識に少々疑問あり)。
 そこで二十世紀中盤以降についてはカット。妙だなと思ったのは、それ以前の四冊である。Margery Allingham の “The Crime at Black Dudley”(1929)、Ngaio Marsh の “A Man Lay Dead”(1934)、Dorothy L. Sayers の “Gaudy Night”(1936)。
 これ、ぼくのように最近の翻訳事情にうといオールドファンにとっては、Allingham なら “Death of a Ghost”(1934)か “Flowers for the Judge”(1936)、Marsh なら “Overture to Death”(1939)、Sayers なら “The Nine Tailors”(1934)のほうが、それぞれもっとなじみ深いんじゃないのかな。(Allingham たちの原書はどれも入手済みだが、純文学がキツくなったときにそなえ、未読)。
 うん? あと一冊は?
 そう、それが “The Woman in White”(1860)なのだ。Wilkie Collins といえば、なんといっても “The Moonstone”(1868)でしょう。
 その証拠に、早川書房旧版『ミステリ・ハンドブック』(1991)と、文藝春秋編『東西ミステリー ベスト100』(2013)のどちらにも『月長石』は載っているが、『白衣の女』については、ひとことも言及されていない。

 これ、ほんとにミステリなのかな。
 いや、ほんとにミステリです。まだ途中だけど、未読の “The Moonstone”よりすぐれた作品かどうかはさておき、タイム誌が本書をミステリとして扱ったことは間違いではないと思う。
 ただ、いわゆる探偵小説ではない。ここには(まだ)私立探偵も警察も出てこない。そうそう、それから殺人事件も(いまのところ)起こっていない。
 なのにミステリといえるわけは、the woman in white の登場をはじめ、不可思議な状況がつぎつぎに発生し、そこから生じるサスペンスがすごい。この先どうなるんだろうとハラハラ、ドキドキしながら読み進む楽しさ。それが本書の醍醐味でしょう。
 たとえば、と、どこまでネタを割っていいものやらわからないのがミステリ紹介のむずかしいところですな。