ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Patrick Taylor のことなど(3)

 出張2日目。だいぶキーの操作に馴れてきたが、やはり面倒くさい。ケータイ小説なるものの存在が信じられない。
 ふだんのボケに加えて旅先なので読むスピードはのろいが、"An Irish Country Doctor" の輪郭がかなり見えてきた。「この秋最高の読書体験」かどうかはさておき、相変わらずとても楽しい。
 主な場面は2人の医師による診察の模様だが、患者たちとのやりとりには人生の断片が鮮やかに示されていて、これぞまさしく小説、つまり「小さな説」という感じ。それが何より好ましい。
 どこかの国には、有名な文学賞を取ったりしてエラくなったとたん、自分の「社会的立場」を意識してか、にわかに「正義の味方」を気取りはじめ、作品の内外で○○主義を押しつける作家もいるが、その多くは歯の浮くような綺麗事か浅薄な政治的主張ばかりで読むに耐えない。
 それに較べ、Patrick Taylor の描く世界には政治の介入する余地がまったくない。美辞麗句を並べたてたお説教がない。お涙頂戴式の主義主張がない。あるのはただ、日々の平凡な出来事だけ。それなのに、いや、だからこそ心にしみてくる。まさに本物の小説だと思う。その具体例は家に帰ってから書くとしよう。