ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Winnie and Wolf" 雑感(2)

 せっかくの大連休なのに風邪を引いてしまい、ボケ×3状態。クスリのせいか活字を読んでいるとすぐ眠くなる。おかげでこの "Winnie and Wolf" も途中で放りだしていたが、今日になって改めて読みだした。
 体調のせいもあるのだろうが、これは相変わらずシンドイ小説だ。前回、「ヒトラーの愛人の伝記」と要約したものの、ヒロインの Winnie とヒトラーはどうやら単なる愛人関係ではなかったらしく、初対面のときから二人は意気投合、やがて精神的に強い絆で結ばれそうな予感がする。ただ、それが具体的にどう発展するかはまだ分からない。
 それから、今のところ伝記小説というより歴史小説の色彩が強い。1925年から30年くらいのドイツが舞台で、ヒトラーが一定の地歩を固め、ナチスが次第に台頭しつつあった時代を背景に、ワーグナーの息子で Winnie の夫のジークフリートや、ぼくは今までまったく知らなかったのだが、反ユダヤ主義を標榜するイギリスの政治評論家ヒューストン・スチュアート・チェンバレンなどがヒトラーと親交を深める。ほかにもニーチェトスカニーニといった著名人が顔を出し、このあたりに詳しい人ならニヤリとしそうな気がする。
 が、ぼくは今までこれを読みながら、歴史小説の魅力とはいったい何だろうと考えている。たとえば、ワーグナーニーチェもじつはユダヤ人嫌いだったと聞かされても、へえそうですかと思うだけで、べつに面白くも何ともない。それが事実かどうかはさておき、小説の醍醐味は事実の提示ではなく、その提示の仕方にある、というのがぼくの立場だからだ。さらに言えば、提示された事実が人間に関する真実を明らかにするものかどうかが本質的な問題だが、この点でも本書はまだピンとこない。ワーグナー家の秘書の回顧録として当時の思い出が綴られるのはいいのだが、あまりにもオーソドックスで単調すぎる。それとも、事実は小説より奇なり、ということなのか。ともあれ、今後の展開を期待したい。