ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Bonnie Jo Campbell の "American Salvage"(1)

 昨年の全米図書賞最終候補作で、今度は全米批評家(書評家)協会賞にノミネートされている Bonnie Jo Campbell の "American Salvage" を読みおえた。いつものようにまずレビューを書いておこう。

American Salvage

American Salvage

[☆☆☆★★] 事故や犯罪など、人生には突然、自分の意志とは関係なく重大な局面に立たされる瞬間がある。そんなとき当事者は、周囲の人間は何を思い、どんな行動に走るのか。それがこの短編集の共通モチーフである。舞台はミシガン州のあちこちの田舎町。貧困とドラッグ、あるいは孤独や挫折、喪失などから容易に立ち直れない人々が数多く登場する。表題作は車のスクラップ業者の身に降りかかった事件の顛末を描いたものだが、衝撃的で悲痛な体験に遭遇しながらも、何とか再生への道を歩もうとしている姿が読みとれる。この "American Salvage" という店名は、現代のアメリカがおちいっている状況と重ねあわせてもいいかもしれない。そう考えると、ほかのどの短編もローカル・ピースでありながら、また、社会の底辺近くにいる人々の「重大な局面」に的を絞ったものでありながら、じつは確実に現代のアメリカ全体の断面を描きだしている。ただし、処方箋は示されていない。受けたショックに茫然自失となる一方、目にした光景や、身近にいる人々、自分の過去などが心の中に去来する。その描写が細かければ細かいほど、かえってショックの度合いがうかがい知れる。だが、絶望の淵には沈んでいないだけに、かすかな希望の光が射しこんでいる。そんな物語を集めた見事な短編集である。英語は口語表現が多く読みやすい。