ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Abraham Verghese の “Cutting for Stone”(2)

 これはとにかく650ページを越える大長編なので、読みだしたときは、はて、いつになったら読了できるのやらと危ぶんだものだが、いざ取りかかってみるとほんとうに面白く、最近のぼくにしては珍しくすんなり読みおえてしまった。超オススメ本である。
 注文したのはたしか2月の末だが、そのときにはもう、ニューヨーク・タイムズ紙の Trade Paperback 部門でベストセラーとなっていた。ハードカバーのころから評判がよかったに違いない。ぼくが飛びついたのは、米アマゾンの星数が多かったのと、雑感(1)にも書いたとおり、なにしろ魅力的な表紙絵だったから。文学ミーハーのゆえんだが、内容の紹介記事も読まずに注文した本が大当たりだったときほどうれしいことはない。
 いちおうハッピー・エンディングになっているが、決してお涙頂戴式の安易な作りではない。ネタばらしにならない程度に例を挙げると、主人公マリオンが長らく音信不通だった相手と再会したときの顛末にはかなり深い意味があり、まさしく「人間の絆と運命の重みがひしひしと伝わってくる」。
 「人が生まれ育ち、そして生きつづけるあいだに、自分自身はもちろん、自分と深くかかわる人々も数多くのドラマを体験する。その複合ドラマの一環として自分の人生がある。そんな思いに駆られる」小説だと、レビューには小難しいことを書いたが、要は人間、一人で生きてるんじゃないよって意味だ。さらに言えば、自分が生きるということは、自分にとって大切な人の人生を生きることでもあるってこと。本書のタイトル "Cutting for Stone" は、そういうふうにも解釈できると思う。
 何はともあれ、これは今年の上半期に読んだ数少ない本の中で間違いなくベストワン! ぼくは翻訳事情にうといのでわからないが、もう邦訳が出ているか、その準備中であることだろう。日本の大方の読者にも人気を博すものと思われる。