ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Christos Tsiolkas の “The Slap”(2)

 William Hill がつけたオッズを今見ると、本書は 11/2 で3番人気ということだが(ちなみに1番は David Mitchell で、2番は Tom McCarthy)、ぼくの率直な感想は読みはじめたときと変わらず、「ブッカー賞はたぶん無理でしょうね」。
 もしかしたらショートリストには残るかもしれないが、それならそれでブッカー賞も従来のお堅いイメージとは異なり、ずいぶん「さばけてきた」ということだろう。何度も言うように、本書は「無類に面白い読み物」である。掛け値なしに「サービス満点」だ。それから、昨日のレビューにも書いたように、「よくまあこれだけ多くの人物を自在に動かし、いろいろな関係を複雑に絡ませていることかと感心する」。その見事な小説技術はまさに脱帽もので、この点を評価するなら、少なくともショートリストに残ってもおかしくはない。
 ただ、これは「読者の胸を打つような人生の大事を扱ったものではない」。寝っ転がってクイクイ読むぶんにはもってこいだが、深い感動は得られない。というわけで、過去のブッカー賞の受賞作をふりかえってみると、"The Slap" のような「文芸エンタメ系」はどうも不利なんじゃないかな、という気がするのだ。
 とはいうものの、これが受賞するかどうかなんてほんとうは些末な話だ。先日、ある友人に夏休みオススメの作品はないかと尋ねられ、そのときはとっさに Abraham Verghese の "Cutting for Stone" を挙げたのだが(http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20100705)、肩の凝らない本書もなかなかいいですよ。「小説とは小さい説のこと、と割り切って楽しむ」ならね。