ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Christos Tsiolkas の “The Slap”(1)

 今日はお昼を食べたあと、つい眠りこけてしまったが、あとは順調そのもの。今年のブッカー賞の候補作で、昨年の英連邦作家賞受賞作、Christos Tsiolkas の "The Slap" を思ったより早く読みおえることができた。さっそくレビューを書いておこう。

The Slap: A Novel

The Slap: A Novel

[☆☆☆★★] 家庭小説のさまざまな要素を集めた大伽藍のような作品だ。主な舞台はメルボルンギリシャ系の一家がもよおしたバーベキュー・パーティーで大人が幼児をひっぱたくという事件が発生。その余波が広がる中、8人の当事者、目撃者が交代で主役をつとめながら、今までの人生や現在の生活、家族、友人たちとの交流を再点検、総点検する。親子や夫婦、嫁と姑、恋人や友人同士などの衝突と和解、妥協が次から次に繰りだされ、よくまあこれだけ多くの人物を自在に動かし、いろいろな関係を複雑に絡ませていることかと感心する。リレー式に交代する主役が老若男女ということで、老人の孤独、若者の恋愛やイニシエイション、中年の不倫、キャリアウーマンの仕事の悩み、若い親の人間的な未熟ぶりなどに焦点が当てられ、実質的には長編というより短編集のおもむきだ。それぞれの衝突や対決はリーガル・サスペンスも混じるほど波乱に富んでいるし、適度に濡れ場もあってサービス満点。どのエピソードも日常茶飯事なのに、無類に面白い読み物に仕上がっている点がすばらしい。が、「ひっぱたき事件」をはじめ、読者の胸を打つような人生の大事を扱ったものではない。小説とは小さい説のこと、と割り切って楽しむべき作品である。英語はおおむね標準的でとても読みやすい。