帰省中にサボっていた仕事に追われ、なかなか思うように進まないが、それでも何とか後半に突入。わりとクイクイ読める本だ。
といっても、無我夢中で読みふけっているわけではない。舞台がアメリカに変わり、いよいよ本筋が始まったというのに、前回同様、「手馴れた熟練の業こそ認められるものの、斬新な切り口はどうも見当たらない」。ショートリストには残るかもしれないけれど、受賞は厳しいんじゃないかな、という気がする。
まず、「手馴れた熟練の業」から述べると、物語の展開が直線ではなく螺旋状とでもいうのか、過去と現在を何度も往復しながら進む。これまたよくあるパターンだが、本書の場合、この技法をもちいる必然性がある。つまり、Parrot と Olivier の二人がアメリカに渡る以前と以後のあいだには20年ほどの時の流れがあり、そのかんの事情が現在のエピソードに混ざって説明される。その挿入の仕方がとてもうまく、座布団一枚! と言いたくなるほどだ。二人が行動を共にするようになったあと、引き続きそれぞれの視点から交代で語り継がれる形式も、ごくオーソドックスで破綻はない。
けれども、たとえば Parrot の愛人に Olivier 青年が恋をして三角関係になったり、Olivier がアメリカで若い美人を見そめたり、なんていう話を聞かされると、ああまたかよ、と思ってしまうのは、ぼくがヒネクレ者だからでしょうか。それより何より、アメリカでは限りない富の追求が認められるとか、アメリカの民主主義がフランスの手本になるかもしれないと期待していたら、そこには烏合の衆がいるだけだった、などという陳腐な観察を読むと、この時代をモチーフにして歴史小説を書く意味さえ疑ってしまう。「あまりにも有名な歴史の舞台だけに、よほどの新味がないと二番煎じの感はどうしても否めない」のである。大昔読んだトクヴィルの『アメリカの民主政治』をもう一度勉強したほうがよほど面白いのでは、と思えるくらいだ。
…まだ途中なのに、今回も辛口「批評」になってしまった。これからあっと驚くような新味を期待しましょう。