ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Peter Carey の “Parrot and Olivier in America”(1)

 たまっていた仕事を休日返上で片づけたあと、今年のブッカー賞候補作、Peter Carey の "Parrot and Olivier in America" をやっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

Parrot and Olivier in America

Parrot and Olivier in America

  • 作者:Carey, Peter
  • 発売日: 2010/08/05
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆★] 19世紀前半のアメリカを主な舞台に、動乱のつづくフランスを逃れて渡米した青年貴族と、数奇な運命の果てに青年と出会ったイギリス人の召使いが主人公。ふたりの視点から交代で珍道中が語り継がれる。冒険活劇に始まり、コミカルなドタバタ騒動や、青年が召使いの恋人に熱をあげて三角関係になったり、美しいアメリカ娘に恋をしたりといったメロドラマなど、個々のエピソードはけっこう楽しい。それらを通じて、飽くなき富の追求や自由の享受といった当時のアメリカの状況が次第に浮かびあがるところは歴史小説。一方、青年が貴族ゆえに味わうカルチャーショックは通過儀礼でもあり、その点に絞れば青春小説とも言える。視点の変化のほか、過去と現在の話が巧みに配され、手紙文も混じるなど語り口に熟練の業が光り、饒舌な文体にも見るべきものがある。とはいえ、作者の富や自由をめぐる歴史観はあまりに教科書的で、知的昂奮を呼び起こすことがない。登場人物の生き方に感動することもない。そのため盛り上がりに欠け、上述の巧妙な技法もからまわり気味の水準作である。