たまっていた仕事を休日返上で片づけたあと、今年のブッカー賞候補作、Peter Carey の "Parrot and Olivier in America" をやっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★] 19世紀前半の
アメリカを主な舞台に、動乱のつづくフランスを逃れて渡米した青年貴族と、数奇な運命の果てに青年と出会ったイギリス人の召使いが主人公。ふたりの視点から交代で珍道中が語り継がれる。冒険活劇に始まり、コミカルなドタバタ騒動や、青年が召使いの恋人に熱をあげて三角関係になったり、美しい
アメリカ娘に恋をしたりといったメロドラマなど、個々のエピソードはけっこう楽しい。それらを通じて、飽くなき富の追求や自由の享受といった当時の
アメリカの状況が次第に浮かびあがるところは
歴史小説。一方、青年が貴族ゆえに味わうカルチャーショックは
通過儀礼でもあり、その点に絞れば青春小説とも言える。視点の変化のほか、過去と現在の話が巧みに配され、手紙文も混じるなど語り口に熟練の業が光り、饒舌な文体にも見るべきものがある。とはいえ、作者の富や自由をめぐる
歴史観はあまりに教科書的で、知的昂奮を呼び起こすことがない。登場人物の生き方に感動することもない。そのため盛り上がりに欠け、上述の巧妙な技法もからまわり気味の水準作である。