ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Rafael Yglesias の “A Happy Marriage”(2)

 昨日のレビューにも書いたとおり、これは「男と女が出会って結ばれ、そして死別する。煎じ詰めるとそれだけの話」である。おまけに終始一貫、過去と現在の物語が交差する展開だし、末期ガンに冒された妻が死の床にあるという現在編がどんな結末を迎えるかは火を見るよりも明らかだ。過去編にしても、うぶな青年が美人に恋をしてすっかり舞いあがる。
 …このようにまとめると、何だこりゃ、要するに三文小説じゃないかという見方も成り立つかもしれないが、本書から「得られる感動は『それだけの話』では済まされないほど大きい」。これはひとえに、作者が家族の愛と死というテーマに真剣に取り組み、その綺麗事だけにとどまらない現実を赤裸々に描いているからだ。
 ぼくはこれを読みながら、in-laws もふくめた自分の家族との関係、今まで家族内で起きた大小さまざまな事件に思いを馳せざるをえなかった。親子のあいだで意見が対立し、配偶者がその板ばさみになる。明らかに親が、子供が、配偶者が、そして自分自身が考えちがいをする。こうした本書に出てくるエピソードは日常茶飯であるだけに、身につまされることがやたら多い。家族と一緒に暮らすことは当たり前のようでいて、じつは大変な作業なのだ。独り身のほうがよほど気楽でいいかもしれない。
 その家族が、いや、もしかしたらその前に自分がいつかは死んでいく。これまた、しごく当然の話だが、同じく非常に大変なことなのだと本書を読んでいて実感した。死ぬ前にどれほど物的、心理的な「準備」が必要なことか。
 だが、それもこれもすべて、結婚して家族がいればこそ、の話である。「結婚はやはり人生の大事」なのだ。その美点、すばらしさについては言うまでもない。けれども、本書を読めば、結婚生活が、家族生活が大変な共同作業であるからこそ初めてすばらしい意味を持つのだとわかる。そういう「幸せな結婚」を描いた本書がどうして三文小説たりえようか。
 それにしても、本書が栄冠に輝いたこのロサンジェルス・タイムズ紙小説大賞(LA Times Book Prize for Fiction)という文学賞はタダモノではない。ぼくは今まで、気がついたら受賞作を読んでいた、といった程度の認識しかなかったが、これからは意識的に追っかけようと思う。