ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Rafael Yglesias の “A Happy Marriage”(3)

 先日、映画「君を想って海をゆく」はイマイチだったと書いたが、その理由の一つは、クルド人難民の少年がイギリスにいる恋人と再会すべく、英仏海峡を泳いで渡ろうとする設定そのものにさほど共感できなかったからだ。それから、少年に水泳を教えるコーチと元妻の関係も釈然としなかった。2人は明らかに愛しあっているのに、どうして別れる必要があったのだろう。ぼくの見落としでなければ、どうもその説明はなかったようだ。
 と、そんなことを思い出したのは、ひょっとしたら本書の「幸せな結婚」というテーマそのものに共感できない読者もいるのでは、と思ったからである。たしかにこれは、今恋をしている人や配偶者のいる人が読めば、ふむふむなるほど、と身につまされることの多い作品である。でも独身貴族が読んだらどうなんだろうな。それでも「本書を読めば、結婚生活が、家族生活が大変な共同作業であるからこそ初めてすばらしい意味を持つのだとわかる」のだろうか。それくらいの説得力がある作品だとぼくは思うのだが、独身で本好きの友人に意見を聞いてみたいところだ。
 ともあれ、映画にしても小説にしても、感情移入しやすい設定であるかどうかは、けっこう重要なファクターである。ただ、それはどこまで決め手となるのだろう。テーマそのものには共感できなくても、作劇術や語り口などに魅了されることもあるはずだ。今まであまり意識しなかった点であり、そんな作品があったのかどうかさえも記憶にないが、今後はそのあたりも注意して読んでみたいと思う。