ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Rafael Yglesias の “A Happy Marriage”(1)

 去年のロサンジェルス・タイムズ紙小説大賞(LA Times Book Prize for Fiction)受賞作、Rafael Yglesias の "A Happy Marriage" を読了。これでようやく年が明けたような気がする。さっそくレビューを書いておこう。

A Happy Marriage

A Happy Marriage

[☆☆☆★★★] たしかにテーマは「幸せな結婚」だ。が同時に、涙なしには読めない、ある夫婦の出会いと別れの物語でもある。30年の時を隔てて過去編の恋愛小説と現在編の家庭小説が平行して進む展開で、まずそのコントラストが面白い。成功を博した処女作のあと、ずっと売れない若手作家が目の覚めるような美人と出会い、恋をする。恋敵とのつばぜり合い、初デート、初キス…。同棲経験があるのに心はうぶな青年のあわてぶりがコミカルで好感が持てる。30年後、その彼女は今や末期ガンに冒されて死の床にあり、映画脚本家に転じた夫が献身的に看病をしている。延命治療を拒否、自宅でホスピスのケアを受けながら、葬儀や墓地の手配まで自分の希望を通す妻。その妻と両親との対立、小説家として挫折した夫の苦悩、離婚の危機など過去の回想も混じるなか死のカウントダウンが始まり、読んでいて胸が苦しくなる。その苦しさは時に耐えがたく、青春時代のドタバタ劇に話が戻るとホッとするほどだ。だが、こちらもある結末に向かってカウントダウン。交差する2つの物語のピッチが次第に速まり、「幸せな結婚」を象徴する2つの事件となって幕を閉じる。男と女が出会って結ばれ、そして死別する。煎じ詰めるとそれだけの話なのに、得られる感動は「それだけの話」では済まされないほど大きい。結婚はやはり人生の大事だと思い知らされる。語彙レヴェルはやや高く、歯ごたえのある緻密な文体だ。