ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Super Sad True Love Story”雑感(3)

 2部構成の一つは主人公 Lenny の日記だが、あと一つは彼が恋した若い娘 Eunice のメールのやりとりで、相手は友人や母親、妹、そして Lenny。にぎやかで饒舌な会話から成り立ち、こちらもまず文体的に面白い。Eunice はいちおう Lenny の愛を受けとめ、彼を憎からず思ってはいるのだが、もちろんお定まりのすれ違いもあり、そのギャップがコミカルだ。
 ただ、Lenny 同様 Eunice も繊細な感情の持ち主で、元恋人と別れた心の傷がいまだ癒えず、愛と慰めを求め、絶望の中に希望を見いだそうとしている。それが Lenny と同棲するようになったきっかけだ。しかし、前半で2人が曲がりなりにも結びついたということは…。
 以上、今までの流れを2人の恋物語を中心にまとめてみたが、ますます「単なるラブコメではなさそうだ」と思える要素が出てきた。2人はセントラル・パークに出かけ、そこで元軍人などのホームレスを見かけるのだが、やがてそのホームレスたちは、イスラム過激派のテロリストと連携していたという理由で虐殺される。
 まさに全体主義国家ならではの事件で、事実、'One Party, One Nation, One God' というスローガンが訴えられるようになる。そういう悲劇的な状況の中で個人の恋愛はどんな運命をたどるのだろう。さらに言えば、その後、極度に発達したネット社会が人間の直接的なコミュニケーションを阻害している様子を風刺したエピソードも盛りこまれている。このように大きな国家的、文化的な背景が Lenny の恋にどう作用するのか楽しみだ。