ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Barbara Kingsolver の “The Lacuna”(2)

 3回の雑感では「クイクイ度が足りない」、「これが "Prodigal Summer" と同じ作者の作品かと思うとがっかりする」などと酷評してきたが、その後、「中盤を過ぎたあたりでエンジン全開。終わってみれば…大変な力作」ということで、前半の仕掛けをすぐに見抜けなかったとはまことにお恥ずかしい次第。その昔、"Prodigal Summer" にノックアウトされたわりには、キングソルヴァーを甘く見ていましたね。
 裏表紙の紹介文にも載っていることなのでネタばらしにはならないと思うが、前半の山場はやはり、主人公の青年とトロツキーの出会いである。青年はトロツキーの秘書となり、その暗殺にショックを受けるのだが、両者の関係はさほど密接なものではない。青年がノンポリだからだ。それゆえ、「世界史的に重要な人物の登場する意味が伝わってこない」し、暗殺事件にしても「史実に付け加えるものが何もない」。だから、「ドラマティックな展開としてはイマイチ盛りあがりに欠ける」などと、つい浅はかなグチをこぼしてしまった。
 ともあれ、中にはぼくと同じく前半で「やや忍耐を強いられ」る読者もいることだろう。が、その忍耐はあとで必ず十分に報われる。「これはやはり、悠々たる筆運びをじっくり楽しむべき」本でしたね。去年のオレンジ賞受賞以来、本書は英米ともにずっとベストセラーになっている。この世評を信じて、物語の流れを素直に追いかけるのが得策というわけだ。
 それにしても、「歴史が大きく変動するとき、人間の運命も大きく左右されるのは世の常だが、変化の瞬間には歴史の渦に巻きこまれていることがわからないかもしれない」。今日はこのことについてもっと書こうと思ったが、もう眠くなってしまった。