ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Memory of Love”雑感(4)

 このところ血圧がやけに低く、何だかフラフラする。おかげで昨日も思ったほど進まなかったが、相変わらずすばらしい出来ばえである。
 途中で気がつき、考えてみれば当然だなと思ったのは、シエラレオネが舞台だけあって、激しかった内戦がやはり物語に影を落としていることだ。最初のうちは抑制された筆致で少しずつ描かれ、ビクトル・エリセ監督の名画「ミツバチのささやき」や「エル・スール」におけるような「間接話法」に近かったが、やがて回想形式とはいえ、恐怖に満ちた陰惨きわまりない場面に慄然とさせられる。
 シエラレオネの内戦を扱った作品といえば、何と言っても Ishmael Beah のノンフィクション "A Long Way Gone" が有名で、ぼくも何年か前にレビューを書いたが、ここではあれほどの地獄絵巻がくりひろげられるわけではない。が、1968年の軍事クーデター、1991年の内戦開始、1999年の和平合意という大きな流れを背景に、3人の登場人物にとってそれぞれ重大な事件が起きる。そこに恐怖の場面も混じっているわけだ。(シエラレオネの歴史をネットでにわか勉強して書いたが、この流れを頭にいれておくといっそう興味深く読めると思う)。
 当初は、主人公の一人 Elias (最初は大学講師だが、のちに学部長)が同僚の妻に恋をしたり、べつの主人公 Kai が昔の恋人との思い出にふけったり、といったメロドラマかとも思ったが、次第に政治的な混乱、そして内戦が背景にあることがわかり、2人の恋愛に深みと重みが増してくる。やがて第3の主人公 Adrian もイギリスに妻子がいながら、シエラレオネの激動の現代史を体現するような相手と恋に落ちる。その結果がどうなるかはまだ明らかにされていない。
 ともあれ、本書がタイトルから連想されるような甘ったるい恋愛小説ではないことは間違いない。