ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Aminatta Forna の “The Memory of Love”(1)

 今年の国際IMPACダブリン文学賞は「残念ながら」、Colum McCann の "Let the Great World Spin" に決定した。もちろん秀作には違いないのだが、これは周知のとおり、2009年に全米図書賞を受賞している(http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20100128)。ダブリン文学賞といえば、一般読者にはあまりなじみのない作品に日の目を当てる役割を果たすことが多かっただけに、今年はこの賞をきっかけに未知の作家に取り組むこともないだろうと思うと残念だ。
 さて、今年の英連邦作家賞(Commonwealth Writers' Prize)受賞作で、オレンジ賞最終候補作でもある、Aminatta Forna の "The Memory of Love" をようやく読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。(点数評価は後日)。

The Memory of Love

The Memory of Love

The Memory of Love

The Memory of Love

[☆☆☆★★★] 静かな愛の回想に始まり、恋愛を通じて激動のシエラレオネの現代史を象徴的に描いたあと、最後はまた愛の思い出へと静かに戻っていく秀作。主な舞台はフリータウン。死の床にある大学教授がイギリス人の心理カウンセラーを相手に、若いころ、同僚の教授の妻に恋をした話をする。一方、カウンセラーと親交のある外科医も内戦時代の恋人の回想を始める。また一方、このカウンセラーもイギリスに妻子がありながら現地の娘と恋に落ちる。いずれも表面的にはメロドラマそのものだが、やがて3つの恋は一つに結びつき、シエラレオネの過酷な政治状況を映しだすとともに、その中で懸命に生きつづけた人々の愛と不信、裏切り、心の傷が、さまざまなエピソードを通じて次第に浮かびあがる。感情を抑えた語り口だが、時に激しい暴力シーンが入り混じり慄然とする。そのコントラストが鮮やかだ。主な事件を回想や第三者の報告など、いわば間接的に紹介する手法もみごと。ともあれ、個人の恋愛が国家の歴史や運命に翻弄されるとき、その恋愛はたとえようもない深みと重みを増す。しみじみと語られる愛の思い出に、しばし言葉を失ってしまう。英語も内容をよく反映した味わい深い文体である。