ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jeffrey Eugenides の “The Marriage Plot” (2)

 デカサイズ版のペイパーバックは持ち運びに不便なので、しぶしぶ取りかかった本書だが、読みはじめてからしばらくして、全米批評家協会賞の「大本命かも」と直感的に思ったものだ。読後の今、その直感はかなり確信に近づいている。もし外れたら見解の相違というやつでしょう。ただし、今まで読んだ4冊の候補作はどれも力作で、結局、それぞれの長所をどれだけほかの作品より高く評価するか、ということかもしれない。さすがは協会賞ですな。
 ほかとの比較はさておき、ぼくがこの "The Marriage Plot" でまず気に入ったのは、これが「無類におもしろい」点である。冒頭のシーンからして引きこまれる。主人公の女子学生が卒業式の日の朝、今まで読んだディケンズやオースティンなどの小説がところ狭しと並ぶ自分の部屋で泥酔から目を覚ます。文学ファンなら思わず、おっ、となるはずで、それからどんどん話が動きだすところがいい。その昔、ミステリは最初のページに動きのあるものほど出来がいい、という趣旨のことを片岡義男が述べていたが、純文学の場合でも、ある程度当てはまる話かもしれない。
 本書があまりにおもしろいので雑感を書くのをやめ、どんどん先へ読み進んだ結果、なんとか連休中に読了。こんな経験も久しぶりだが、終盤にさしかかり、そろそろ点数を決めようと思ったとき、たまたま先月、同じく協会賞の候補作 Teju Cole の "Open City" を読んだあと、「深くておもしろい」作品が自分のゴヒイキだ、と書いたことを思い出した。では、「無類におもしろい」"The Marriage Plot" は同時に「深い」とも言えるのだろうか。
 もちろん、そんなことはない。女子学生に「2人の男子学生がからむ三角関係と、その結婚をめぐる騒動。要するにそれだけの話」だからだ。「華麗な文体と巧妙な技術が(結婚という)凡庸なテーマを支える…小さな説」としての小説にすぎないからである。
 それなのに、めったにつけたことのない(去年は結局、"The Tiger's Wife" だけだった)☆☆☆☆★を進呈したのはなぜか。とんでもない勘違いのような気もするけれど、本書が「文学的な野心に満ちた作品」だと思うからである。…今日はおしまい。