ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Eowyn Ivey の “The Snow Child” (2)

 去年の話題作がまだ何冊か積ん読中なのに(おととし以前のものは数知れず)、久しぶりに米アマゾンの月間ベスト作品を検索してみたら本書が目にとまった。タイトルとカバーからして、いかにも文芸エンタメ路線らしい。ちょうど Vanessa Diffenbaugh の "The Language of Flowers" を読みだしたところだったので、たまには同じ路線を2冊続けてみようと買い求めた。
 その結果、今回も「見てくれ買い」は大当たり。今、米アマゾンを検索すると、レビュー数59で星5つとなっている。ぼくはそこまでいいとは思わなかったけれど、ファンタジーが大流行中の出版界だ(それとも、もう陰りが見えているのかな。翻訳事情にはうといので、よくわかりません)。いちはやく版権を取得している会社もあるかもしれない。
 へえ、と思ったのは、書中、あのアーサー・ランサムが登場することで、「あとがき」によると、ランサムがロシア民話を下地に書いた "The Little Daughter of Snow" という短編(巻末に収録)と作者が出会ったのが本書の執筆に結びついたらしい。第1部の冒頭には、その短編の一節が引用され、主筋のおおまかな紹介となっている。
 昨日のレビューには「異色の現代版フェアリー・テイル」と書いたが、これは見当ちがいかもしれない。「大枠としてはフェアリー・テイルながら…すこぶる人間的な現実が中心を占めている」作品も珍しくはなさそうな気もする。猫も杓子もファンタジーという風潮には染まりたくない、というアマノジャクの理由で、こういう系列の本はふだん敬遠しているので推測でものを言うしかない。
 平凡な感想だが、ぼくはこれを読みながら、フェアリー・テイルというのは、人間の満たされぬ願望を物語化したものなんだろうな、と思った。子供のいない夫婦のもとにある日突然、雪娘がやってくる。と書いただけで、本書の底流にある情念が読みとれるだろう。その昔ながらの「情念」に「すこぶる人間的な現実」というモダンな衣装をまとわせたのが本書なのである。
 理屈はさておき、これはクイクイ読める。ぼくが読んだのはイギリス版のペイパーバックだが、残念ながらデカサイズ。それさえ我慢すれば、間違いなく「通勤快読本」です。