ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Eowyn Ivey の “The Snow Child” (1)

 Eowyn Ivey の "The Snow Child" を読了。米アマゾンが選んだ2月の優秀作品のひとつで、英米アマゾンの小説部門でベストセラーになっている。さっそくレビューを書いておこう。(後記:その後本書は、2013年のピューリツァー賞最終候補作に選ばれました)。

[☆☆☆★★★] 現実とファンタジーの世界が奇妙にいり混じった異色の現代版フェアリー・テイル。現代といっても舞台は1920年代のアラスカで、全三部の冒頭にそれぞれ挿入された民話や童話が主筋をほぼ形成。子どものいない夫婦ジャックとメイベルが新天地を求めて最後のフロンティアへ。過酷な自然環境のもと耐乏生活をしいられていた矢先、雪でつくった少女の像に命が吹きこまれたのか、それとも山中で死んだ男の娘が訪ねてきたのか、「雪娘」とジャック夫婦のふしぎな交流がはじまる。明らかに妖精だが、いかにも人間らしい雪娘。同様に、大枠としてはフェアリー・テイルながら、狩猟や農作業など開拓民の生活が活写される、すこぶる人間的な現実。書中の言葉を借りれば、雪娘は親子の「愛と献身、希望と不安」の象徴であり、それらを端的に物語る山場がときに楽しく、ときに切なく、ときにサスペンスフルで一気に読ませる。子どものいない夫婦に子どもがやってきた。要はそれだけの話をかくもみごとな「現代版フェアリー・テイル」に仕立てあげるとは、およそ新人作家らしからぬ力量である。