ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Eowyn Ivey の “The Snow Child” (1)

 Eowyn Ivey の "The Snow Child" を読了。米アマゾンが選んだ2月の優秀作品のひとつで、英米アマゾンの小説部門でベストセラーになっている。さっそくレビューを書いておこう。

The Snow Child

The Snow Child

[☆☆☆★★★] 現実世界とファンタジーの世界が奇妙に混在する、異色の現代版フェアリー・テイル。現代といっても舞台は1920年代のアラスカで、「奇妙な混在」はさほど無理のない設定と言えよう。全3部の冒頭にそれぞれ挿入された民話や童話が主筋をほぼ形成。子供のいない夫婦が新天地を求めて最後のフロンティアへ。過酷な自然環境のもとで耐乏生活をしいられていた矢先、雪で作った少女の像に命が吹きこまれたのか、山中で死んだ男の娘が訪ねてきたのか、「雪娘」と夫婦の不思議な交流がはじまる。明らかに妖精だが、いかにも人間らしい雪娘。同様に、大枠としてはフェアリー・テイルながら、厳然たるファンタジーの世界があるわけではなく、それが現実世界を浸蝕することもなく、むしろ親が子供にそそぐ愛情、子供が得られない悲哀をはじめ、農作業や狩猟など開拓民の生活の細部にいたるまで、すこぶる人間的な現実が中心を占めている。書中の言葉を借りれば、雪娘は親子の「愛と献身、希望と不安」の象徴で、それぞれを端的に物語る山場が時に楽しく、時に切なく、時にサスペンスたっぷりに盛りあがり、一気に読める。英語もごく標準的でとても読みやすい。