ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Greenhouse” 雑感

 アイスランドの作家 Audur Ava Olafsdottir の英訳本、"The Greenhouse" を読んでいる。奥付によると2009年の作品で、英訳されたのは2011年ということだが、ぼくは今年の3月、アマゾンUKの Newsletter で知り、例によってカバー写真にひと目ぼれして入手した。たしか4、5月ごろ、アマゾンUKのフィクションのページにずっと掲載されていたはずだ。
 アイスランドの作家の作品を読むのはこれが初めてで、名作の誉れ高い Halldor Laxness の "Independent People" さえ長らく積ん読中。Olaf Olafsson の "The Journey Home" しかり。それなのに新しいもの好き、カワイコちゃん好きというミーハー趣味で "The Greenhouse" に飛びついてしまった。
 これ、かなりいいです! 最近読んだ本の中では、いちばんいいんじゃないかな。文章に(といっても英訳だけど)一種の空気感、清涼感、透明感みたいなものがある。べつにアイスランドの作家だから、という目で見ているわけではないと思う。当初、カバー写真どおりの荒涼とした溶岩平原の風景が描かれることも一因だが、もうひとつには、固有名詞が少ないことも関係がありそうだ。むろん登場人物は名前で呼ばれるのだが、地名が出てこない。店名や日常的な商品名も(車の Opel を除いて)見当たらない。そこから、人物と人物の関与する物語のあいだに抽象的な距離が生まれているような気がする。それが「一種の空気感…」につながっているのではないか。しかもこれ、たんなる雰囲気だけでなく、主人公の人生を象徴していそうなのだ。
 その主人公 Lobbi はどうやらアイスランドの若者で、専門はガーデニング。年老いた父と自閉症の双子の弟と別れ、単身、たぶん南欧の小国に出かけ、村の修道院にある世界的に有名なバラ園の修復に取りかかる。一方、旅の直前には母親が交通事故で死亡。また、好きでもない相手と衝動的に関係し、生後半年になる赤ん坊がいる。結婚はしていない。
 そんな Lobbi のおかれた状況が、バラ園到着まで回想によって少しずつ明らかにされる。この回想形式もまた、上述の「抽象的な距離」を生んでいるようである。…なんだか不得要領の紹介だが、これから一杯やることにしているので今日はおしまい。