ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

M. L. Stedman の “The Light between Oceans” (2)

 波が岩に砕けちる光景の魅力的なカバー写真からおわかりのとおり、これは典型的な文芸エンタメ路線。だから今年のブッカー賞のロングリストに選ばれる可能性は低いと思うが、それでもカバーだけで飛びつく「見てくれ買い」としては久々のヒットだったので、けっこう満足している。
 昨日のレビューを読みかえしてみると、冒頭シーンの紹介が大半で「レビュー」とは名ばかりだが、本書の雰囲気だけは十分味わえると思う。その後もまさに「息をのむほどの絶景にふさわしい魅力的な物語」で、アマノジャクのぼくは、だけどこれ、冒頭からだいたい想像のつく展開だよな、とか、「やや平板な描写とステロタイプに近い人物造形が気になる」よね、などと重箱の隅をつつきながら読んでいるうちに、ついつい「圧倒的な物語の迫力にのみこまれてしま」った。テーマも「親子の愛情の強さ、美しさ」を謳ったもので通俗的だが、こういう文芸エンタメ小説は爆発的な人気を博することがある。映画化も予定されているそうだし、日本でもいち早く版権を取得している会社があるのではないでしょうか。
 映画『喜びも悲しみも幾歳月』とくらべようとも思ったが、エアチェックをしたものの最後まで観た記憶がない。そこで、おなじく灯台守の話で昔読んだ Jeanette Winterson の "Lighthousekeeping" のレビューを再録しておこう。(点数は今日つけました)。

Lighthousekeeping

Lighthousekeeping

[☆☆☆★★] 闇夜を照らす灯台の灯は光っては消え、消えては光る。その光を浴びて一瞬浮かびあがる愛の光景…そんなイメージを頭に描きながら、ジャネット・ウィンターソンは本書を執筆したのではないだろうか。前半は比較的同じ景色だ。スコットランド灯台守が身寄りのない娘を引きとり、灯台と海辺の町にまつわる昔の恋物語を語り聞かせる。愛する女と結婚せず、なぜか牧師となった男。それは単なる劇中劇にとどまらず、こちらのほうがむしろ本編と言えるほどだ。が、やがて灯台守が舞台から退場すると、前半の恋物語も直線的な進行をやめ、娘自身の恋愛その他、さまざまな愛の風景が映しだされる。もちろんそこには前半の種明かしという一貫した流れはあるのだが、散文詩に近い断片的な場面が連続するため、一気に読み進まないと解読しにくいだろう。さすがは才女ウィンターソン、普通に書けば単純な話になるところを、詩的表現と複雑な語りの構造で読みごたえのある作品に仕上げているのだが、その工夫が物語の展開に災いしていることも否定できない。英語は鋭い知性を感じさせる文章で、特に、単語のもつ二重の意味を利用した表現が巧妙。