ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ned Beauman の “The Teleportation Accident” (2)

 「まるでおもちゃ箱をひっくり返したよう」な小説という形容は、われながら、けっこう本書の核心をついているような気がする。よくまあ、ヘンテコかつ愉快なエピソードを次から次に思いつくものだ。この創造力、想像力はただごとではない。そういう意味では、今まで読んだ今年のブッカー賞候補作の中で、Nicola Barker の "The Yips" と一、二を争うのではないか。
 とりわけ、ロスの大学で起こる teleportation accident の爆発力がすごい。「ドタバタ喜劇、ロマンス、スパイ・陰謀小説……SF」といった諸要素が核融合でも起こしたように一気に収斂し、炸裂する。このあたり、☆☆☆★★★をつけようかな、と思ったくらいだ。
 ところが、最後の第4部で尻すぼみ。それまでの「混沌としたハチャメチャな世界」をうまく締めくくろうとしているのだが、フィクションとして作りすぎだし、混沌の理由をそこまで説明しなくても、というわけで★をひとつ削ってしまった。
 それにしても、本書には「根無し草こそ人間存在の本質なのだと思わせる点があり」、この主人公と同様、「ひたすら自分の願望を追い求め、欲望に走りつづける」面が決してないとは言い切れないぼくとしては、デフォルメされた自分のふだんの生活を見ているようでガックリきた。ついでに自分のことを棚に上げ、なんだ、この茶番は「こっけいで、はかない人間の姿」そのものではないか、とも思った。現代はもしかしたら、「おもちゃ箱をひっくり返したよう」な世界なのかもしれない。
 だが、仮に現実がそうであるにしても、現実をありのままに、あるいはデフォルメして描くだけでは感動は生まれない。だから、本書もおもしろいことは無類におもしろいのだけれど、これを読んだからといって胸を打たれるようなことはない。そこがいちばんの減点材料だと思う。「永遠の価値の欠落、理想への無関心からは感動が生まれないことも忘れてはなるまい」というわけだが、これはもちろん、いつもフラフラしてばかりいるぼく自身への自戒の言葉でもあります。