ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

H. E. Bates の “A Month by the Lake & Other Stories” (2)

 このほど恥ずかしながら、表題作が映画化されていることを初めて知り、観てから読むか、読んでから観るかちょっぴり迷ったが、いざ読んでしまうと、少なくとも当分は観る気がしなくなった。頭の中に自分の映画ができあがってしまったからだ。そのイメージが薄れたころにでも実際の映画は観ることにしましょう。故・双葉十三郎氏によれば、終始一貫、「とてもいい気分で」観られるのだそうだ。
 それ、原作のほうにも当てはまりますな。ひとことで言えば「ハートウォーミングな佳篇」。昨日レビューで紹介した粗筋を読んだだけでも想像がつくだろう。なんだ、よくある話じゃないか、と侮るなかれ。なにしろ初出は1960年、半世紀以上も昔の作品なのだ。そんな昔にこういうパターンのお話が確立されたのだと考えるべきである。
 人物像もそうで、退役少佐、若い美人、オールドミスという配役から連想されるとおりのキャラだが、これは類型的なのではなく、まるで千両役者が見えを切ったときのように、「よっ、待ってました!」と声をかけたくなるような描き方なのだ。ユーモアたっぷりの会話もそうだし、美しい自然描写もそう。何から何までみごとに決まっているのである。
 それにしても、いまどき H. E. Bates を読む人なんてそうはいないでしょう。昔から日本ではあまり知られていない作家だし、ひょっとしたら年配の英文学者あたりが思い出したように読むくらいかもしれませんな。ぼくも本書で8年ぶり2冊目で、決して熱心なファンとは言えない。でも、昨日読みおわったあと、a Bates a day「1日1ベイツ」というコピーを思いついたほど気にいってしまった。
 うかつにもダブル買いしてしまった Penguin 版短編集 "Seven by Five" の目次を見ると、全35編中、今回読んだのは9編である。有名だが未読の "The Major of Hussars" や "Go Lovely Rose" も収録されているので、再読のものもふくめて「1日1ベイツ」、35日かけて読みとおしたいものだ。でもきっと、2年くらいかかるだろうな。なにしろぼくは『海辺のカフカ』を驚くなかれ、2年がかりで読んだくらいだから、ま、同じ要領で気長にがんばりましょう。