ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Orphan Master's Son” 雑感 (1)

 この連休中は Adam Johnson の "The Orphan Master's Son" をボチボチ読んでいた。米アマゾンの上半期ベスト10小説のひとつで、取り寄せた理由は早くもペイパーバック版が出ていたからだ。表紙を見ると、'A daring and remarkable novel.' という Michiko Kakutani のコメントが。とあれば読まずにはいられないだろう。(ちなみに、ぼくのアンテナに Michiko Kakutani の署名記事を掲載しているが、ぼく自身は彼女のレビューをろくに読んだことがない。読めば勉強になるのはわかっているけれど、今のような自己マンのブログが書けなくなっては困る。ちらっと読んだだけでもプロのすごさを感じます)。
 さて、ページをひらくと、Dear Leader Kim Jong Il の文字が目に飛びこんできた。えっ、またまた 'a dangerous book' か! 思わず投げ出したくなったが、Michiko Kakutani のお言葉もあることだし、米アマゾンを検索するとレビュアー数165で星4つ。相当に高い評価である。気を取り直し、読みつづけることにした。
 主人公は北朝鮮の青年 Jun Do。父親が孤児だけの作業部隊のリーダーだったが、Jun Do 自身は孤児ではない。韓国に侵入するトンネルを掘削中、暗闇での戦闘能力を買われ、長らく中止されていた日本人拉致の工作員となる。試験的に2人を拉致したあと新潟に潜入。当地で公演されていたオペラに出演中のソプラノ歌手 Rumina の拉致に成功する。このくだり、不謹慎な言い方だが、けっこうサスペンスがある。Jun Do と Rumina のかわす会話がリアル。
 以上が第1章の粗筋で、その後も拉致の話がつづくのかと思ったら、Jun Do は度重なる拉致の功績を認められ、語学学校で英語を研修。情報収集員として漁船に乗りこみ、無線傍受の任につく。やがて親しくなった船員が逃亡、ウソの美談をでっちあげた Jun Do は真相を追求され、拷問を受けるがそれに耐え、英雄となる。このかん、サメやエビの漁の模様が活写され、海の景色の描写は美しく、船長の思い出話が混じったり、アメリカの軍艦と遭遇して臨検を受け、にわかに緊張が高まるなど、起伏に富んだ展開でなかなかおもしろい。政府高官への皮肉や体制批判の言葉も飛びだすが、ほんとのようなウソのような。ともあれ話術が巧みである。
 ……例によって不得要領の紹介になってしまったが、まだまだ序盤。小さい活字の分厚い本だし、職場が繁忙期に入ったこともあり、読みおえるのにけっこう時間がかかりそうだ。