ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jim Crace の “Harvest” (2)

 「最後にどんでん返しでもあるのかな」と期待しながら読んでいると、「どんでん返し」というほどではないが終盤、大きな山場。それまで「何を訴えようとしているのかよくわからな」かった本書の意図も、そこでようやく腑に落ちた……ような気がした。
 「深読みかもしれないが」といちおう断ったが、これはあえて「深読み」しなければ、べつになんということもない作品である。そもそも年代が明示されていないことからもわかるように、有名な史実に新解釈をくわえるとか、一般に知られざる事実を紹介するといった通常の歴史小説としての試みは皆無に近い。イギリスの「まだ荘園領主が村を治めていた時代」に起きた事件を通じて、作者はいったい「何を訴えようとしているのか」。そういう興味が働いてこそ、初めておもしろく読める小説だと思う。
 むろん、ぼくのような解釈が絶対に正しいとは思わない。それどころか、イギリスの歴史に詳しい読者なら、ぼくが指摘した「負の連鎖」以外にも、いやその内容についても、このくだりにはこんな意図が隠されている、と思い当たる点が多々あるのではないだろうか。アマゾンUKで本書の評価が高いのも(レビュー数36で星4つ半)、ひとつにはそういう背景知識の多さが関係しているような気がする。
 「負の連鎖」の中でぼくがいちばん興味をもったのは、「正義感に駆られた人間のふるう暴力」である。事件のあと追いや、間接的な表現が多いのが不満だが、「複合現象」の一環としては納得できる。ちなみに、これは何年か前、このブログでえんえんと書きつづけた〈"Moby-Dick" と「闇の力」〉のテーマでもある。
 本書が今年のブッカー賞ロングリストに選ばれるかどうか。「現代社会に警鐘を鳴らす寓話小説として解釈」するなら可能性は大いにありそうだ、とだけ言っておこう。