Jim Crace の "Harvest" を読了。今年2月にアマゾンUKが選んだ月間優秀作品のひとつで、最近はブッカー賞ロングリストへのノミネートも取り沙汰されている。さっそくレビューを書いておこう。
追記:その後、本書はブッカー賞ショートリストに入選。また2015年には、国際IMPACダブリン文学賞を受賞しました。
[☆☆☆★★] 舞台はイギリスの片田舎。まだ
荘園領主が村を治めていた時代、不心得者が領主の館で失火騒ぎを起こし、それをきっかけに悲劇がはじまる。深読みかもしれないが、これは
現代社会に警鐘を鳴らした寓話小説と解することもできよう。どんなに平和で繁栄した国でも、
不都合な真実を隠蔽するうちに混乱が生じ、最悪の場合には社会全体が崩壊してしまう。その過程にはさまざまな負の連鎖がある。真実の隠蔽はもちろん、縄張り意識と差別、大衆への迎合、集団ヒステリー、
魔女狩り、
ユートピアの欺瞞、権力者の恣意と優柔不断、権力の空白がもたらす無秩序、正義感に駆られた人間のふるう暴力。当初はのどかな田園風景にふさわしいゆるやかな展開で、しかも上のもろもろの要素が複雑にからまり、なかなか話の方向が見えない。しかしやがて事件はしだいに
エスカレート。気づいたときには主人公ともども、地域社会の崩壊を目のあたりにしている。それはいわば複合現象であり、どれかひとつが決定的な要因とはいいがたい。そのぶん焦点がぼやけ、
インパクトに欠ける憾みもあるが、こうした負の連鎖こそ、じつはすこぶる現代的な崩壊過程ではないだろうか。