Byatt の作品は今まで二冊しか読んだことがない。まず手にしたのは短編集 "Sugar & Other Stories" だが、憶えている作品はゼロ。次に読んだ2009年のブッカー賞最終候補作 "The Children's Book" は、落選もむべなるかな。受賞した Hilary Mantel の "Wolf Hall" [☆☆☆☆★] とは格段の差があった。が、いちおうレビューを再録しておこう。
- 作者: A S Byatt
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 2010/01/07
- メディア: ペーパーバック
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「秀作になりそこねている」とは一種の euphemism で、要するに、無駄に長すぎる凡作だと言いたかったような気がする。それでも Byatt は力のある作家だと思った。上掲書をざっと拾い読みしただけでも、「詳細をきわめる」「モザイク模様」のような描写が〈ハンパない〉ことがわかる。
というわけで、彼女が実力を遺憾なく発揮したものと期待できそうな "Possession" は、いつか読みたいものだと前々から思っていた。で、Murdoch の "The Bell" を読んだあと、なぜか Byatt の名前が頭にひらめいた。そうだ、Byatt を読もう!
じつはまず、"The Virgin in the Garden" (魅力的なタイトルだ) を読みかけたのだが、少なくとも冒頭だけくらべると、"Possession" のほうが取り組みやすい。
前者はこうだ。'She had invited Alexander, whether on the spur of the moment or with malice aftethought he did not know, to come and hear Flora Robson do Queen Elizabeth at the National Portrait Gallery. He had meant to say no, but had said yes, and now stood outside that building contemplating its sooty designation.' (p.9)
こうして書き写してみると、ううむ、こちらでもよかったかな、という気もする。ただ、She, Alexander, Flora Robson がどんな人物か明らかになるのにしばらく時間がかかりそうだ。それは小説では当たり前のことで、最初からネタを割る作家など誰もいない。
一方、"Possession" の出だしはこうなっている。'The book was thick and black and covered with dust. Its boards were bowed and creaking; it had been maltreated in its own time. Its spine was missing, or, rather, protruded from amongst the leaves like a bulky marker. It was bandaged about and about with dirty white tape, tied in a neat bow.' (p.3)
じつはこの前に詩の引用があるのだがカット。さて、こうしてほぼ同じ分量を比較してみると、"Possession" のほうが The book という一点に的を絞っているぶんだけ、明らかに作品の世界に入りやすくなっている。
しかも、カットした詩を読むと、'Until the tricksy hero, Herakles, Came to his dispossession and the theft.' という一節があり、タイトルの "Possession" との対比を感じさせる。巧みな引用だ。実際、この詩の出典を探る話があとに続いている。
というわけで本書を読みはじめたのだが、途中までは☆4つ。ちょうど今、★を1つ追加しようかどうか迷いはじめたところだ。
(写真は宇和島市須賀川。左手のビルがなければ昔とほぼ同じ風景。現在と過去が同居しているような風景だ)。