ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Hisham Matar の “My Friends”(4)

 ああ、残念! "My Friends"(☆☆☆★★)、ちょっと期待していたのにショートリストから漏れてしまった。
 懸念材料はあった。(2)で述べたとおり、「一朝有事のさい、自由という理想に殉じて帰国すべきか、それとも移住先で確立した地位を守り、勝ち得た信頼に応えるべきか」という問題が深掘りされていないこと。それから、最近のブッカー賞受賞作や最終候補作とくらべ、ややインパクトが弱いこと。
 そのせいか、読後一ヵ月近くたったいま、あらためてふりかえっても、さほど強烈に訴えかけてくるものがない。迷っていた点数も、けっきょく原則どおり変更しないことにした。
 ここで interlude。現地ファンによるショートリストの直前予想はこうだった。
1. James
1. Creation Lake
3. Playground
4. My Friends
5. Orbital
6. Stone Yard Devotional
6. Held
 それがフタをあけると先日の結果となり、最新の人気ランキングはこうなっている。
1. James
2 or 4. Stone Yard Devotional
3 or 2. Orbital
4 or 3. Held
5. Creation Lake
6. The Safekeep
 ぼくはこのうち、2~5まで注文したばかり。既読の候補作が "James"(☆☆☆★★)だけだったとは気が重い。同書も傑作とはいいがたいのに、もしほかの作品が下馬評どおりの出来ばえだとすれば、いやがうえにも意欲をそがれてしまう。
 表題作にもどろう。カダフィ圧政時代、イギリス留学中の主人公 Khaled は友人の Mustafa ともども反政府デモに参加。リビア大使館から銃が乱射され、瀕死の重傷を負う。これは1984年4月17日、実際に起きた事件(死亡した英国人警官にちなみフレッチャー事件)をもとにしているとのことだが、ぼくはその史実を知らなかった。
 それよりぼくにとって興味ぶかかったのは Khaled が英文学専攻で、こんな作品を読んでいることだった。Schoolwork was demanding. ... I read Mrs Dalloway. I read Richardson's Clarissa. I read the Brontës and Dickens. I read Trollope, George Eliot, Thackeray and Gaskell. I read earnestly and chronologically, from Chaucer to the Elizabethans to Graham Greene. I had some good teachers. I took things too seriously. I was silently horrified, for example, when in the first week, a lecturer took us to the college bar and said casually, ..., that he did not expect us to always read absolutely every single page of those big Victorian novels. I did, and ...(p.213)
 ぼくも今年はたまたま古典巡礼に出かけ、いまひと休みしているところ。every single page of those big Victorian novels という phrase が、ずしりと重く感じられる。Dickens なんて、見るからに戦意喪失のボリュームだ。
 そういえば、だれのどんな小説だったか、アメリカの高校生が「国語」の授業で Faulkner を読まされるというエピソードがあった。そしてイギリスの大学で出される課題は、上のように demanding。むろんフィクションだが、おそらく実際も似たようなものだろう。マジかよ、といいたくなった。
 本書には先月紹介したとおり、Conrad の話も出てくる。ぼくはたまたま "Nostromo"(1904)を読んでいる途中、"My Friends" と "James" に乗り換えざるをえなくなり、もっか上の四冊が届くまでのつなぎに再挑戦中。
 中断したせいでかなり人物関係を忘れてしまい、英語版 Wiki で確認しながらボチボチ読んでいる。それでもやっと面白くなりかけてきたところだ。いやはや。

(最近寝床の友は時代小説)