ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Hisham Matar の “My Friends”(2)

 さていま、あらためて現地ファンの下馬評をチェックしてみると、本書は Percival Everett の “James” と並んで相変わらず首位を併走。三位も Richard Powers で変わらない。
 本来ならツマミ食いは禁物で、たとえハズレでも、なぜそれが凡作かと考えることで勉強になる。今年ロングリストにノミネートされた作家でいえば、Claire Messud の “The Last Life”(1999 ☆☆☆★★★)を読んだのはジャケ買い時代。

 ☆☆☆はもちろん、ひどい場合には☆☆★★の作品に出会ったこともあるが、ここはいいけど、ここはラフ、などと気のついた点をメモしていくうちに、ぼくなりの洋書乱読術が身についたようだ。ときたま、上の本のように未知の作家の未知の佳篇を「発見」した自己マンにひたるのはゴキゲンだった。
 とはいえ、いまや年金生活。予算と時間にかぎりがあり、ランダムに手を出すゆとりはない。それにまだまだ、少なくとも英語では訪れたことのない巡礼地が多い。定評のある古典がほんとうにその評価どおりの名作なのか、それをたしかめるのは格別の楽しみだ。いきおい、新作については厳選せざるをえない。
 評価といえば表題作、まだ迷っている部分がある。読みはじめてからしばらくは☆☆☆★★だったが、「一朝有事のさい、自由という理想に殉じて帰国すべきか、それとも移住先で確立した地位を守り、勝ち得た信頼に応えるべきか」という問題が提出されたところで、★をひとつ追加。たしかに人気を集めているだけのことはありますな、と感心した。
 ところが、その問題がどんどん深掘りされるのかと思いきや、話はあちこちに飛び、それはそれで面白いのだけど、いつのまにかまた、☆☆☆★★にもどってしまった。はて、どうしようか。落ち穂ひろいをしているうちに、めったに変えたことのない点数、変更したくなるかもしれません。
 最近のブッカー賞受賞作や候補作とくらべると、 "Shuggie Bain"(2020 ☆☆☆★★★)や "The Promise"(2021 ☆☆☆★★★)、"Small Things Like These"(2021 ☆☆☆★★★)などより、ちょっと弱いかな。でも、"Prophet Song"(2023 ☆☆☆★★)よりはいい。これも迷う材料のひとつだ。
 もっとも、ぼくは「しんみりした泣き」のある作品ほど点数が甘くなる傾向があり、だから「泣かせどころ」の比較的少ない表題作には辛くなったのかも。上に洋書乱読術と書いたが、いい加減なものです。(つづく)

(下は、この記事を書きながら聴いていたCD)