ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ernest Cline の “Ready Player One”(3)

 今までいろいろ書いてきたが、「これは要するに勧善懲悪のゲームを小説化したもの」であり、「そう割り切って」「童心に返って楽しむべき」作品である。ぼくのように、「小説的な興味としてはどうか」などと重箱の隅をつつくのは野暮というものだ。
 ……と思いつつ、さらに分析らしきものを続けると、ここで描かれている仮想現実の世界は将来、実際に出現する可能性が大いにあるものと思われる。エネルギー枯渇や環境汚染、地球温暖化などによって世界は危機的な状況におちいる一方、コンピュータソフトの開発が進み、現在すでに存在しているかもしれないネット社会がますます発展し、「文明のあらゆる領域にわたって構築された」仮想現実のユートピアが生まれ、人間は醜悪な現実から逃避し、そのユートピアで毎日過ごすようになる……。
 そういう状況でいちばん問題になるのはたぶん、人間同士の直接的なコミュニケーションの機会が減ることによって、人間の精神が次第に退化していくことであるような気がする。その結果、文明は必然的に衰亡への道をたどりはじめる。
 ……などと、柄にもなく大風呂敷を広げてしまったが、もしこの "Ready Player One" がそういう観点に立って文明論を掘り下げたとしたら、これはたいへんな傑作に……いやいや、ないものねだりはやめましょう。それに、ぼくはろくに人づきあいもせず、毎日毎日、好きな小説を読んでばかりいるオタク族なので、文明がどうのと大きなことを言えたものではない。本書はとにかく「童心に返って楽しむべき」本です。