スタートレックやガンダムなどに詳しい同僚に本書の粗筋を話したら俄然、興味を示し、ぜひ現物を見せてほしいと言われた。ことほどさように、これはオタク族(その同僚はさにあらず)をぐっと惹きつけそうな作品である。
ちなみに、この本は映画化されるかもしれないね、とぼくが話したところ、同僚の見解によると、版権の問題がからむのでまず無理だろうという。たしかにウルトラマンやガンダム、メカゴジラ、(ぼくは知らなかった)ミネルバX、レオパルドンが登場して「壮絶なバトルをくりひろげる」ほか、いま憶えている映画だけでも『ブレードランナー』のシーンが出てくる。80年代の(おそらく)ヒット曲ががんがん鳴り響き、たぶん実際にあったと思われるゲームソフトが続出。これらを原作どおり一つの映画にまとめるのは夢のような企画かもしれない。それゆえ本書は、映画やテレビ、ゲームなどの有名なキャラクターが一堂に会するという実際にはありえない、「ゲームファンにとっては垂涎の的と思われる」作品なのだ。
だが、小説的な興味としてはどうか。ぼくは「主人公のウェイド少年がアバターとなり難敵と戦うシーン」にハラハラしながらも、待てよ、この昂奮は「テレビゲームかつCG映画」から得られるものと同じだぞ、と気づいたとたん、いささか興ざめしてしまった。ただし、動画的な昂奮を言葉で巧みに表現しているところに、本書の小説としての美点のひとつがあるとは思う。
ぼくがむしろ昂奮したのは、ウェイド少年が仮想現実ではなく、ほんとうの現実世界で危険きわまりない冒険をするところ。やはりフィクションなのに、こちらのほうが「体を張った」感覚が伝わってくるからだ。映画で言えば、『マトリックス』のCGによるアクションにはゲンナリするが、映像処理はしてあっても『96時間』やボーン・シリーズのほうが「血と汗」を感じさせる。あれと同じことですな。