ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

『おはん』

 大晦日の晩はまず、例によってバイロイト盤で第9を聴いた。

ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱つき》[バイロイトの第9/第2世代復刻]

ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱つき》[バイロイトの第9/第2世代復刻]

 「第2世代アナログ盤復刻」と銘打たれたこのデルタ盤は、昔のCDと較べるとはるかに聴きやすい。定盤と言ってもいいだろう。ぼくはこれで充分満足している。
 紅白は年越しそばを食べながら、ちらっと見た程度で、あとは、前から見たかった『おはん』をDVDで鑑賞。
おはん [DVD]

おはん [DVD]

 これは素晴らしい映画だ。話も映像も最高。さすが市川崑、さすが吉永小百合と感心した。そもそも、妻の吉永小百合と別れて!芸者の大原麗子と一緒になり!そのあと密かに妻と逢瀬を重ねるなどという、現実には絶対あり得ない話なのに、見ているうちに引きこまれるのがフシギ。夫に捨てられながらも、夫への愛に生きるおはん。今どきそんな女性がいるはずが、いや、昔だっていたはずがない…と思いつつ、リアリティーを超えた説得力を感じた。
 それから、けなげなおはんと、勝ち気なおかよのあいだを揺れ動くダメ男、石坂浩二の演技もいい。石坂がこれほどうまい役者だとは知らなかった。
 映画を見ながら、小説のこともいろいろ考えた。「リアリティーを超えた説得力」もそのひとつだし、要は男と女の人情話に過ぎないのに、その平凡さが気にならない。そんな小説を来年も読みたいものだ、などなど。
 台詞も面白かった。とりわけ、ミヤコ蝶々のおばはんと石坂のやりとりには、思わず噴きだしてしまった。
「なんや、ケッタイな話やな」
「なんが?」
「いや、ホンマはやで、女房の目を盗んで、ほかのおなごに逢いに行くもんや。そうやろ? あんたの場合はやな、女房と逢うのに、人目を忍んでおうてるわけやろ?」
「ええ、まあ」
「まあつまり、嫁はんと浮気してるわけやな」
「ままならんもんですなあ」
 …と書き写していてもおかしい。二人の間の取り方も絶妙だが、これは文章では表現できない。ともあれ、この映画を見たことで、小説の読み方も微妙に変わってくるような気がした。