オレンジ賞の発表が近づいてきた。去年は発表の数日前から、公式HPの "read this" というコーナーで受賞作の "The Road Home" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080628 が紹介されていたが、今年はそんなコーナーが見当たらない。
ぼくは Marilynne Robinson の "Gilead" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080224 がゴヒイキなので、その続編らしい "Home" が栄冠に輝くことを大いに期待しているのだが、実際に取りかかるのは明後日あたりになりそうだ。全米図書賞、全米書評家(批評家)協会賞と落選続きなので、三度目の正直となるかどうか。シノプシスから判断して、Kamila Shamsie の "Burnt Shadows" も何となく気になるので先週注文したところだが、まだ手元に届いてない。
- 作者: Kamila Shamsie
- 出版社/メーカー: Picador
- 発売日: 2009/04/27
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (1件) を見る
主人公は独身の女流作家で、主な舞台は第二次大戦直後のチャネル諸島。ドイツ軍による占領時代の話がかなり出てくるが、たしかジェームズ・グレアムことジャック・ヒギンズの "A Game for Heroes" もイギリス海峡の島が舞台だったはずだ。昔はスパイ小説や冒険小説ばかり読んでいて、もっとまじめに文学を勉強しろ!と某先生に叱られたものだ。
この本はいわゆる書簡体小説で、主人公の作家が島の人々や出版者などと交わす書簡や電報を通じて、それぞれの人物像やお互いの関係などが次第に浮かびあがってくる。戦時中、ひょんなことからタイトルの The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society という文学会が島で設立され、そのメンバーから手紙が届いたのをきっかけに作家との交流が始まる。
ゴキゲンな点は、全編にわたってユーモアにあふれ、主人公も小説の基調も明朗快活であること。戦争が採りあげられたとたん話は深刻になりがちだが、この作品はちょっと違う。たしかに占領時代の悲惨なエピソードも出てくるし、凄惨なシーンも少しあるのだが、終始一貫、人々の誠意、善意、正義感、人情、愛情、陽気などが伝わってくる。といって、決して浅薄な小説ではない。そのあたりにどうも本書の勘所がありそうだ。