ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Betrayal”雑感(3)

 いやはや、それにしても昨日のブッカー賞の発表には驚いた! なにしろ、ぼくが「栄冠に輝かないことを切に祈る」とまで酷評した Howard Jacobson の "The Finkler Question" がまさに栄冠に輝いてしまったのだから、選考委員諸氏のことを思うと、「この世にはまったく波長の合わない人間がいるものだとしか言いようがない」。でもまあ、ぼくは文学にはいろいろな読み方があっていいという立場でもあるので、同書を読んで感動し、おたくの読みは浅いね、と異論を唱える御仁がいてもいっこうにフシギではない。
 一夜明けた今朝は全米図書賞のショートリストが発表されていた。ここでも Peter Carey のあの凡作がノミネート。そのほか、Nichole Krauss の "Great House" と Karen Tei Yamashita の "I Hotel" がペイパーバック版で読めることがわかり、さっそく注文しておいた。読書予定がまた少し狂いそうだ。
 閑話休題。先日の連休は結局、たまっていた仕事に追われ、そのストレス発散のために夕方は痛飲。おかげで "The Betrayal" を読むのもしばらくお休みしていたが、中断の原因はほかにもある。先週末に会った友人に本書を見せたところ、慧眼の友人は裏表紙の紹介記事をひと目見るなり、「この本はこれだけ読めば十分」。たしかにそうだよなあ、ということで、すっかり読書意欲が失せてしまったのだ。
 とはいえ、せっかく100ページも読んだのに途中で放り出すのはもったいないと思い直し、改めて着手。さらに100ページ読み進んだが、眠い目をこすりつつ、といったところでちょっと退屈。秘密警察の高官の息子がガンにかかり、主人公の一人、Andrei は小児科医ということで、同僚のユダヤ人女性医師が執刀して少年の片足を切除。その後、間奏曲のような感じで Andrei 夫婦をめぐる小さなエピソードが続く。妻 Anna の妊娠、同居している Anna の弟がもたらした隣人とのトラブル、病院主催の舞踏会。一方、手術は成功したかに思えたが、ある日突然…。
 ぼくの好みを言えば、この中盤はもっとサスペンス・タッチのほうがいい。友人の言うとおり、これはたぶんステロタイプの小説なんだろうから、同じ想定内の展開ならミステリ調のほうが面白い。とはいえ、まだタイトルの「裏切り」事件は起きていない。だいたいの予想はつくのだが、その予想を「裏切る」ような劇的展開を期待しよう。