しばらくブログをサボっているうちに今年のブッカー賞の受賞作が発表された。ぼくの「面白度」ランキングで最下位だった Howard Jacobson の "The Finkler Question" である! ぼくは本書の読了後、読んだ時間を返してくれ、と言いたくなるほどの駄作だと思った。それゆえ今回の受賞にはまったく納得できないが、とりあえず以前のレビューを再録しておこう。なお、落選候補作のレビューは http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20101004/p1 にまとめている。
[☆☆★★] 愛と死にまつわる予言に始まり、それぞれ妻を亡くしたばかりの
ユダヤ人の旧友二人と旧交を温めた男が追いはぎに襲われるくだりまではまずまず面白い。が、
ラブロマンスなりミステリ仕立ての展開になるのかと思いきや、話はかなり退屈な
ユダヤ人論へと流れていく。
イスラエルによるガザ侵攻を背景に、三人の住むロンドンで
ユダヤ人迫害事件も起こるなか、今日、
ユダヤ人であることにどんな誇りや意味があるのか。夫婦の愛情の歴史や不倫、同棲、男同士の友情なども話題に取りあげられるが、それはいわば刺身のツマ。中心はあくまでも、今や憎悪の対象でしかない(と登場人物が感じている)
ユダヤ人への理解、および
ユダヤ人としての存在意義にある。ところが、この問題へのアプローチが政治的な観点にとどまっているため、差別する側の心理と、差別される側の苦しみを描くことによって当然導かれるはずの
人間性にかかわる真実がさっぱり見えてこない。ゆえに退屈千万。結末から冒頭の予言をふりかえると、あれはいったい何だったのかと疑問に思ってしまう。英語は総じて読みやすいが、語彙的にはやや難易度が高いほうだと思う。