ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Even the Dogs”雑感

 夕べのわが家は、ぼくにとって2度目の夜の計画停電。娘は戦争体験もないのに戦時中みたいとつぶやき、さっさと自室に戻って布団の中にもぐりこんだらしい。かみさんはこたつに入って友人にメール。ぼくもその横で、電池がもったいない、目がもっと悪くなると思いつつ、単2の懐中電灯を照らしながら Jon McGregor の最新長編 "Even the Dogs" に取りかかった。さいわい予定より1時間ほど早く電気がついたが、まさか家の中でキャンプ生活もどきを送ることになろうとは、地震発生時にはゆめゆめ思わなかった。
 McGregor の旧作ではかなり昔、"If Nobody Speaks of Remarkable Things" を読んだことがあり、エクセルに打ちこんでいる既読リストを調べると、「散文詩による法善寺横町物語」という当時の短評ものこっているのだが、はて、それが何のことやら自分でもさっぱり思い出せない。本の内容ももちろん失念。というわけで、McGregor はほとんど未知の作家である。
 今日はまだ、やっと本書の目鼻がついたところだが、これは散文詩とまでは言えないにしても、まず文体的に惹きつけられる。ブロークンな口語や俗語の連続で、最初はいささか面食らったが次第に面白さがわかってきた。頭の中で音読するだけで、畳みかけるような力強さ、リズミカルな歯切れのよさが心地よく伝わってくる。中には「意識の流れ」的な表現もあり、ボケた頭を鍛えなおすには手ごろなむずかしさだ。
 ユニークな視点も本書の特徴のひとつだろう。クリスマスが過ぎた年末、イギリスの中東部かな、ある街のボロアパートでアル中の男が死亡。その死体発見に始まり、今読んでいるのは検視の場面だが、男の仲間と思われる we が実況中継している。が、どうもこの we が現場に居合わせているわけではなさそうで、ちょっとシュールな設定である。
 それに加え、死亡した男の人生が超倍速で再現され、最初は実況中継とあわせてカットバックの連続だ。やがて男の仲間たちの今までの人生、日常生活も一人ずつ再現される。空き家に勝手に住み、失業手当で食いつなぎ、ドラッグなしには生きていけない最下層の人々。パワフルな文体によって活写される彼らの生態がじつに魅力的である。