ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jon McGregor の “Even the Dogs”(1)

 Jon McGregor の最新長編 "Even the Dogs" を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。(その後、本書は2012年の国際IMPACダブリン文学賞を受賞しました)。

Even the Dogs

Even the Dogs

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[☆☆☆★★] 年の暮れ、アル中のロバートがボロアパートで孤独死。たったそれだけの話から、かくもみごとな小説に仕立てあげるとは! まず視点と叙述スタイルに絶妙の工夫が凝らされている。必ずしも現場にいるとは思えない仲間たちが、ロバートの死体発見から搬送、司法解剖、検死裁判、そして火葬にいたるまで実況中継。と同時に、妻子と別れ、アパートでひとり飲んだくれていたロバートの人生と、ドラッグなしには生きていけない仲間たちの人生が超倍速で再現される。時に意識の流れの技法もまじえながら、カットバックを鮮やかにくりかえし、ブロークンな口語や俗語をもちいて力づよく、また歯切れよく最下層の人びとの生態を描きだすことばの魔力。その奔流のなかから孤独と悲哀、絶望、喪失感、愛するひとへの思い、そしてロバートと仲間たちの友情などがしだいに伝わってくる。しみじみとした余韻ののこる佳篇である。