ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Bottle Factory Outing”雑感

 昨年7月に他界した “ブッカー賞悲運の女王” Beryl Bainbridge の "The Bottle Factory Outing" に取りかかった。1974年の同賞最終候補作である。
 Bainbridge の訃報を知ったのは何と今年の2月。急遽、未読だった4冊の最終候補作を入手し、4月にまず73年の "The Dressmaker" を読んでみたが、とてもすばらしい出来ばえだった!
 そこで今回は、彼女の「追悼読書」第2弾ということになる。ぼくは原則として同じ作家の作品を1年以内に続けて読まないようにしているのだが、例外のない原則はない。彼女がもし鬼籍に入らなかったら、接する機会がさらに遅れていたはずなので、この際、のこりの2冊も年内に読もうと思っている。
 さて本書だが、2年連続してショートリストに選ばれたということで、Bainbridge としては脂が乗っていた時期の作品ではないだろうか。まだ途中なので文字どおり雑感にすぎないが、秀作の片鱗が早くもうかがえるような気がする。
 最大の山はたぶん、タイトルどおり、ワイン工場の従業員たちの日帰り旅行で、そのときとんでもない事件が起きるのだが、ネタを明かすわけにはいかない。それでも雰囲気だけ伝えておくと、この事件にかぎらず本書は最初からオフビートな面白さがある。何だかヘンテコなのだ。何年か前に読んだ1990年の最終候補作、"An Awfully Big Adventure" と似たような味わいで、そのレビューにぼくは「ブラック気味のコメディー」と書いたけれど、ひょっとしたら本書もそうなるのかもしれない。
 が、上の事件が発生するまでは、これはいわゆるシチュエーション・コメディーなのかな、と思っていた。主人公は同じアパートに住む2人の若い女で、どちらもロンドンのイタリア系ワイン工場につとめている。そのうち、繊細でおとなしい年上の Brenda が作業主任からセクハラを受けているのだが、彼女は防寒のためコートの内側だったかに新聞紙を詰めこんでいて、それが主任のおさわりでガサガサ音を立てる。
 長くなったので今日はこのへんにしておくが、とにかく、登場人物の境遇や内面などを丹念に描写するうちに物語が少しずつ進むところがいかにも英国小説らしい。それがオフビートなシチュエーションである点に Bainbridge の特徴があるのかもしれない。