ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Beryl Bainbridge の “The Bottle Factory Outing”(2)

 今年の2月、5冊のブッカー賞最終候補作のカバー写真を並べただけの簡単な追悼記事を書いてから4ヵ月。やっと5分の3までレビューつきになった。ほぼ1年遅れとはいえ、東洋の島国のマイナーなブログで少しずつ「追悼読書」が進行していることを Bainbridge が草葉の陰で知ったら、にっこり笑ってくれそうな気がする。
 1990年の "An Awfully Big Adventure" を読んだのは何年も前のことなので細部は忘れてしまったが、それでも、ずいぶん芸達者な作家だな、という印象はのこっている。それはさる4月に読んだ73年の "The Dressmaker"、そしてこの74年の本書にも当てはまる。
 3作のレビューの中で、小説技術について述べたくだりを拾ってみると、「ウィットに富んだ会話、ユーモアあふれる描写をベースに、短いカットを小気味よくつなぐ」。「丹念な人物造形、鮮やかな場面や視点の変化、当意即妙の会話」。登場人物の「境遇や性格、内面がじっくり描かれるうちに物語が進行する」。…どれも似たり寄ったりの陳腐な評言だが、「芸達者な作家」という意味だけはつかめると思う。
 それにしても、前作 "The Dressmaker" が最後、思わず息をのむようなヒッチコックばりのサスペンス劇だったのにたいし、今度は「ハリーの災難」を思わせる「ブラック・ユーモア感覚で処理したシチュエーション・コメディー」。ヒッチコックは最晩年、Bainbridge の2作と同年代に「フレンジー」(72年)、「ファミリー・プロット」(76年)を撮っている。面倒くさいので検索はしなかったが、2人がおたがいに関心を持っていたとしても何らフシギではないだろう。
 ところで、ふと思いついて「サロン・ドット・コム」を調べてみたら、この「現代英語作家ガイド」には Bainbridge は載っていなかった。イギリスの渋い作家だから無視されたのかもしれないが、ちょっと残念だ。
 ただ、ひょっとしたら、それは彼女がついに「悲運の女王」で終わった理由と関係しているのかも、という気がしなくもない。しかしながら、その点について論じると重箱の隅をつつくことになりそうで、「追悼読書」にふわさしくない。せめて5冊ぜんぶ読みおわってからにしようと思う。