ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Beryl Bainbridge の “The Bottle Factory Outing”(1)

 Beryl Bainbridge の "The Bottle Factory Outing" を読みおえた。Bainbridge は、生涯で5回もブッカー賞のショートリストにノミネートされながら、ついに栄冠に輝くことなく昨年7月に他界してしまった「悲運の女王」で、これは1974年の作品。彼女としては2冊目の最終候補作である。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] ああ、おもしろかった! こんなにケッサクな喜劇小説に出会ったのはひさしぶりだ。まっ先に連想したのはヒッチコックの「ハリーの災難」。あの名画と同じ味わいのユーモア感覚に充ち満ちた作品である。つまりブラック・ユーモア。終盤のオフビートな展開には、「なんじゃ、これは!」と叫びながら、ひとり盛りあがってしまった。当初からヘンテコなシチュエーション・コメディの要素が多々あり、ロンドンのワイン工場で働く若い女が作業主任からセクハラを受けたとき、防寒のため衣服の内側に詰めこんでいた新聞紙が、主任のおさわりでガサガサ音を立てる。主人公はあとひとり、この女と同居している女工員で、彼女たちの境遇や性格、内面がじっくり描かれるうちに物語が進むという、いかにも英国小説らしい展開だ。それが上のようにすこぶるユーモラス。やがてタイトルどおり、工員たちが日帰り旅行に出かけたところ、とんでもない珍事件が発生。それから先はもう、ただただ奇想天外な話としかいいようがない。こういうブラック・ユーモアを発揮したシチュエーション・コメディこそ、いまは亡きベインブリッジの十八番だったのかもしれない。