ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Forgotten Waltz” 雑感

 Anne Enright の "The Forgotten Waltz" に取りかかった。ご存じ2007年度ブッカー賞受賞作家の最新作である。
 ぼくはあのときの受賞作、"The Gathering" にはえらく退屈したほうだが、今回彼女の作品を読んでみようと思ったのは、今年のブッカー賞のロングリストに選ばれそうな本をざっと検索した結果、本書がもうペイパーバックで読めることを発見したからだ。あちらのブロガーたちのあいだでは、Enright をはじめ、Linda Grant や Philip Hensher、Lloyd Jones、Edward St. Aubyn、Alan Hollinghurst、Justin Cartwright など、過去の受賞作家やショートリスト、ロングリスト入りした作家の最新作が注目を集めている。中でも、St. Aubyn の "At Last" の評判がいいようだ。

At Last

At Last

 さて、肝心の "The Forgotten Waltz" だが、個人的な趣味だけ言えば、今のところ、"The Gathering" よりこちらのほうがぼくはお気に入り。あちらは何しろ、「最愛の人間を亡くしたときの空虚な浮遊感」を「皮膚感覚的といってもよいほど繊細な筆致で」表現したもので、だからこそ、その芸術性が高く評価されたのだと思うけれど、ぼくはフワフワした「浮遊感」に誘われ、つい眠気をもよおしてしまった。
 その点、本書は核になるストーリーが確立されているぶん、焦点がしっかり合っていて読みやすい。主人公は32歳の女 Gina で、舞台はダブリン。夫がいながら、姉の家の隣人、Sean と不倫関係になる。キスシーンを Sean の幼い娘に目撃されたところから始まり、そこにいたるまでの経緯が2人の出会いから回想される。ウィットに富み、切れ味鋭い、活き活きした文体で、Gina の心情が直截に綴られている。こんな力強さは、"The Gathering" には見られなかったものだ。
 ただ、ロングリスト入りとなると、ちと厳しいんじゃないでしょうか。単純明快な話だけに深みがない。あくまでも、今のところ、だけど、『アンナ・カレーニナ』ほど分厚くないし、何だか掘り下げようもなさそうな点が気にかかる。でもまあ、これから波乱含みの展開になるはずだから、お手並み拝見といきましょう。