ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elizabeth Haynes の “Into the Darkest Corner”(2)

 相変わらず気分はすぐれないが、ぼくの勘違いで本書が昔の恋人のミステリだったせいか、意外に早く読みおえることができた。内容も確かめず、魅力的なカバーとタイトルだけで入手した今回の「見てくれ買い」、まずまず当たりといったところでしょうか。
 ミステリの中でもサスペンスと言えば、小学生のとき、題名は忘れたがコーネル・ウールリッチの短編を、今となっては懐かしい、あかね書房版の少年少女世界推理文学全集で読んだのが初体験。いやあ、ほんとにドキドキしましたね。話の内容もすっかり忘れたのに、心臓を締めつけられるような恐怖と不安、焦燥感だけは鮮明に憶えている。
 つぎに出くわしたのが、同じくウールリッチがウィリアム・アイリッシュの別名で書いた名作の誉れ高い『幻の女』。中学生のときの話だが、読んでいる最中ずっと息苦しくて、これはおぼろげながら中身も記憶にある。原作 "Phantom Lady" も読もうと思ってペイパーバックを入手したのが30年近く前だろうか。以来、ずっと積ん読です。

Phantom Lady (Definitive Series)

Phantom Lady (Definitive Series)

 前置きが長くなった。要するに、そういう絶対的な名作とくらべると、この "Into the Darkest Corner" はやはり落ちる、と言いたかったのだ。
 もちろん、凡作ではない。定石的な展開ながら、心理描写にしても人物像にしてもしっかり書きこまれているし、あっさり「謎が解け、先も読める」わりには「わかっちゃいるけど面白いミステリ」である。いま作者の紹介記事を読むと、これが処女作なのだそうだ。それにしては芸達者ですな。
 が、肝心のサスペンス度がもの足りない。ミステリ・ファンなら「あっさり謎が解け、先も読める」からである。どうせハッピー・エンディングだろうと思わせても、謎そのものはやっぱり簡単には解けないほうがいい。それから新しい謎がどんどん出てくるほうがいい。そのうえで、主人公が絶体絶命のピンチにおちいり、それをどう切り抜けるかという仕掛け。そして何と言っても意外な結末!
 とまあ、ウールリッチの諸作やパトリック・クェンティンの『二人の妻を持つ男』、ジェフリイ・ハドスンの『緊急の場合は』など、往年の秀作をぼんやり思い出しながらぼくの好みを挙げてみた。そんな物差しで測ると、"Into the Darkest Corner" は、いい線は行ってるんだけど今ひとつですな。ミステリなので、奥歯に物のはさまった言い方しかできませんが。
 それでも、こんな小説は初めて、という人ならハラハラドキドキするかもしれない。ぼくも首筋が痛いわりには、とりわけ後半、周囲の人間の無理解ぶりに、ええい、早く主人公の話を信じてやってくれ、と思ったものだ。こういう感情移入もサスペンスにつながるわけです。だからまあ、「わかっちゃいるけど面白いミステリ」と言えるでしょう。