ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elizabeth Haynes の “Into the Darkest Corner” (1)

 アマゾンUKが選んだ(ノンフィクションもふくむ)昨年の最優秀作品のひとつ、Elizabeth Haynes の "Into the Darkest Corner" を読了。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

Into the Darkest Corner

Into the Darkest Corner

[☆☆☆★★] 主人公の身に危険が迫っているのに、周囲の人間はさっぱり理解を示さない――ウールリッチあたりを代表とする古典的なサスペンスの設定だが、そこから生まれる恐怖や不安、焦燥感はいくら定石どおりでも、読者が主人公につい感情移入してしまうだけにハラハラドキドキ。本書はそんな作品だ。冒頭、ある暴行事件と殺人事件が紹介され、当初その意味は不明だが、やがて簡単に推測がつく。大半は2つの物語が4年の歳月をはさんで進行する展開で、どちらも同じ若い女が主人公。女は最初、陽気で派手好み、人生を謳歌しており、ある男と恋仲になるが、男は何やら得体が知れず、ときおり異常な行動に走り、粗暴な一面ものぞかせる。4年後、女は強迫神経症を患い、極度に警戒心の強い人間となっている。が、同じ借家に住む心理療法医と親しくなり、何とか自分を取り戻そうとしている。そんな矢先、警察から一本の電話が…。どちらの物語もプロローグと同じで、当初はどんな事件が起こるか不明だが、人物像がつかめたところで謎が解け、先も読める。が、この難点も冒頭に述べた事情であまり気にならない。とりわけ終幕はアクションも混じって大いに盛り上がる。「わかっちゃいるけど面白い」ミステリだ。難度のやや高い口語表現が頻出するが、総じて読みやすい英語である。