ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elizabeth Haynes の “Into the Darkest Corner” (1)

 アマゾンUKが選んだ(ノンフィクションもふくむ)昨年の最優秀作品のひとつ、Elizabeth Haynes の "Into the Darkest Corner" を読了。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 主人公の身に危険が迫っているのに、周囲の人間はさっぱり理解を示さない――ウールリッチあたりを代表とする古典的なサスペンスの設定だが、そこから生まれる恐怖や不安、焦燥感はいくら定石どおりでも、主人公につい感情移入してしまうだけにハラハラドキドキ。本書はそんな作品だ。冒頭、ある暴行事件と殺人事件が起こり、当初その意味は不明だが、やがて簡単に推測がつく。大半はふたつの物語が四年の歳月をはさんで交互に進む展開で、どちらも主人公は若い女キャサリン・ベイリー。彼女は最初、陽気で派手好み、人生を謳歌するうちリー・ブライトマンという男と恋仲に。しかしリーはなにやら得体が知れず、ときおり異常な行動に走り、粗暴な一面ものぞかせる。四年後、キャサリン強迫神経症を患い、極度に警戒心のつよい人間となっている。が、同じ借家に住む心理療法医と親しくなり回復にむけて鋭意努力中。そんな矢先、警察から一本の電話が……。どちらの物語もプロローグ同様、途中まで五里霧中ながら人物像がつかめたところで謎が解け、先も読める。が、この難点も上に述べた事情であまり気にならない。とりわけ終幕はアクションも混じり、おおいに盛り上がる。「わかっちゃいるけど面白い」ミステリだ。