ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Bring up the Bodies” 雑感 (1)

 この土日も仕事に追われたが、忙中閑あり、Hilary Mantel の "Bring up the Bodies" に取りかかった。ご存じ09年のブッカー賞受賞作、"Wolf Hall" の続編である。あの秀作に続編があり、しかも3部作になるというビッグ・ニュースを知ったのは3月初旬で、ぼくはそのとき、何だか予言が当たったようでとてもうれしかった。
 というのも、"Wolf Hall" について書いた一連の駄文をぼくはこう締めくくっていたからである。「…トマス・モアの理想主義もクロムウェルの現実主義も、理不尽で横暴な国王にしてみれば大差はなかった。自分の願望を満たすための道具であるか否か――ヘンリーにとっては、ただそれだけが問題だったのだ。…(Mantel にはそういう)点にまで踏みこんで理想主義者と現実主義者の違いを示してほしかった。さらには、前者の見事さと後者のはかなさを描きわけてほしかった。しかしそのためには、大作である本書でも分量が足りず、また新たな物語が必要なことだろう。ぜひ続編を期待したいところである」。
 その期待が実現したということでワクワクしながら読みはじめたのだが…今のところ、これは正直言って期待したほどの出来ばえではない。が、クイクイ読める。☆☆☆★★くらいかな、という気がしている。
 クイクイ度が高い理由のひとつは、前作を夢中で読んだおかげで人物関係がまだ頭にのこっていたからだ。主人公トマス・クロムウェルの妻と娘たちが死んだことはすっかり忘れていたが(そんな記述あったっけ)、ヘンリー8世やアン・ブリーン(一般的な表記はブーリンのようだが、森護の『英国王室史話』ではブリーン。三省堂の『固有名詞英語発音辞典』によると Boleyn の e にアクセントがあり、ブリーンのほうが原音に近いかもしれない)、キャサリン妃、ジェイン・シーモアなど主要な人物は再登場。続編だから当然の話だが、序盤で人物関係をつかむ手間が省けるのはありがたい。また、これも定石ながら、ときおり混じるクロムウェルの回想によって、前作で起きた事件を思い出しやすくなっている。が、この時代が背景の小説を読むのは本書が初めてという人は、ネットでアン・ブリーンを調べるか『史話』を手元に用意しておいたほうがいいだろう。
 …かんじんの中身にさっぱりふれない中途半端なイントロだが、早く先が読みたいので今日はこのへんで。