ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Bring up the Bodies” 雑感 (2)

 相変わらず多忙な毎日だが、なんとか時間を作って本書を読んでいる。クイクイ度もちょっと上がり、★を一つおまけしてもいいかな、という気になってきた。ただやっぱり、"Wolf Hall" ほどの出来ではない。おもしろいけれど二番煎じだからだ。
 これを読みはじめてまず疑問に思ったのは、たしかにクイクイ読めるのはいいのだけれど、このノリのよさは、前作の余韻が多分にのこっているからではないか、という点である。前王妃キャサリンが他界。アン・ブリーンはめでたく懐妊するものの男子を流産。やがてヘンリー8世はアンの侍女ジェイン・シーモアに心を寄せる。史実どおりの展開で話はわかりやすいが、物足りないのは "Wolf Hall" とちがって「愉快な裏話、楽屋話」がほとんどないところだ。いや、あるのかもしれないが記憶にのこっていない。だからぼくは途中まで、自分自身はいちおう楽しんでいるけれど、もし前作を読んだことのない人がいきなり本書に取り組んだとしたら、こんなもの、ほんとにおもしろいのかな、と思っていた。
 それが読み進むうちに少し好感度がアップしたのは、前作同様、ヘンリー8世やキャサリン、アン、ジェインなど「立場の異なる要人のあいだを自在に動きまわ」る主人公トマス・クロムウェルの生き方が興味ぶかいからである。卑しい身分から宮内長官に成り上がった点を貴族連中から揶揄されても意に介さず、対立する相手とも冷静に折衝を重ね、'I have no enemies.' (p.190) と公言してはばからない。'I am a banker.' (p.218) と称してカネにものを言わせ、身勝手な国王の手足となってその願望実現のために尽力する。'I mean the king to be gratified in every respect.' (p.327) これがクロムウェルの政治哲学の要諦である。あ、そんなの「哲学」とは言えないか。
 ともあれ、クロムウェルがアンの「愛人」たちを尋問するくだり(p.326〜)には、いかにも便利屋、トラブルシューター、現実主義者らしい彼の姿がありありと描かれていて、「★を一つおまけしてもいいかな、という気になってきた」。でもこれ、"Wolf Hall" とまったく同じノリですな。さて最後はどうなるんでしょう。