〈世界文学の夏〉シリーズは重い内容が続いたのでひと休み。気分転換に今度は例年どおり、新しいブッカー賞の候補作に取りかかった。まず Rachel Joyce の "The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry" を選んだのは、本書には因縁があるからだ。まだ今年のロングリストが発表される前、あちらのファンのあいだで本書が取り沙汰されているのを知り、いちど注文を出していたのだが、そのあとシノプシスをちらっと読み、前にも書いたとおり「何となくヤワな感じがしてブッカー賞には合わないだろう」と判断。注文を取り消してしまったのである。ロングリストを見てガックリきたことは言うまでもない。
評判はなかなかいいようだ。今現在、アマゾンUKの現代小説部門ベストセラー49位で、レビュー数129星4つ半。ちなみに、Hilary Mantel の "Bring up the Bodies" が41位で、ベストセラーリストに載っている候補作はこの2冊だけだ。Mantel については何度も書くが、ぼくはさほど評価していない。
いつもだいたい的中率の低い William Hill のオッズを調べてみると、発表直後と同様、Mantel が 3/1で1番人気。この "The Unlikely ...." も 6/1で3番人気のままである。が、あちらのファンの中には「まさかこれが入選するとは……」とビックリしている人もいるようで、上のぼくの判断もあながち誤りではなかったのかもしれない。まめに見ているわけではないが、そんな意見は以下のサイトに載っている。http://mookseandgripes.hotblack3.myfreeforum.org/viewforum.php?f=13&sid=37282bb2e16d45dc35b74df879e8a7a2
ざっと以上の「予備知識」で読みはじめたのだが、今のところ、「何となくヤワな感じ」という先入観がどうもつきまとっている。むろん、決してわるくはない。当初は去年の受賞作、"The Sense of an Ending" を思わせ、老人の人生観照小説とでも言おうか。イギリスの南のはずれに近い小さな町に住む Harold Fry のもとにある日、退職した職場の元同僚で、20年前、肉体関係はなかったようだが心が通じあっていた女性 Queenie から手紙が届く。ガンを患い、北部の町のホスピスに入院しているという。簡単な返事を書き、投函しに出かけた Fry だが、たまたま寄ったガソリンスタンドの店員に「信じれば何でもできる」と言われ、そのまま帰宅もせず、歩いて Queenie を見舞いに行こうと衝動的に決心する。こうして500マイル以上にも及ぶ pilgrimage が始まり、道中、Queenie のことはもちろん、今ではすっかり疎遠になってしまった息子や妻のこと、家を飛びだした母、愛情薄い父のことなどを考える。それが過ぎた人生の観照になっているわけだ。
例によって下手くそな紹介だが、イマイチ乗れないのは……いや、長くなったので今日はもうおしまいにしましょう。