ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2012年ギラー賞ショートリスト発表 (2012 Giller Prize shortlist)

 "The Orphan Master's Son" を相変わらずボチボチ読んでいる (昨日はうっかり、"The Orphan's Son" と紹介してしまった)。けっこうハマってきたし、書きたいこともあるのだが、なにしろ職場が繁忙期に入り、これを打ちこんでいる今も疲労困憊。そこで今日は、いささか旧聞に属するが、先日発表されたギラー賞の最終候補作をならべてお茶を濁すことにしよう。
 このうち、ぼくは春ごろ Kim Thúy の "Ru" に興味がわいて注文し、その後アホなことにキャンセルしてしまった。各候補作の内容については、ぼくのアンテナに載せているブログ KevinfromCanada をぜひどうぞ。この人はほんとによく読んでいます。

Inside (Borzoi Books)

Inside (Borzoi Books)

The Imposter Bride

The Imposter Bride

[☆☆☆☆] 親子の愛という凡庸なテーマが、じつは永遠のテーマであることを思い出させてくれる秀作。まずミステリアスな設定がいい。第二次大戦末、他人になりすまして戦禍を逃れたユダヤ人の女が戦後、カナダに移住して結婚。ところが、生後まもない娘を残して失踪してしまう。女は何者なのか。なぜ幸福な生活を捨てたのか。この謎を皮切りに、半世紀近い大河ドラマがはじまる。人物の視点の変化、場面の転換、時代の交錯がじつに鮮やかで、いろいろなストーリーが同時に並行して進む構成がすばらしい。どの人物もじっくり性格や心理、人生の軌跡などが書きこまれ、端役にいたるまで、書中の言葉を借りれば、複雑な「内面生活、すなわち魂」を有する存在として描かれている。これが重層的な構成と相まって物語に厚みを添えている。娘が母親を思うくだりなど、書きようによってはお涙頂戴式になりがちなものだが、本書の場合、素直に胸に響いてくるのも、この重厚な作風のたまものである。序盤の謎が解き明かされるにつれ、深い悲しみと強い愛情が表裏一体となっていることがわかる。逆説的にいえば、愛には悲しみが必要であり、不完全な要素があってこそ、愛は初めて完全なものとなる。そのことを痛感させてくれるがゆえに、本書における謎は、たんに奇をてらったものではなく、必然性のある謎なのである。英語は標準的で読みやすい。(13年2月25日)
Ru

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Whirl Away

Whirl Away

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