ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Khaled Hosseini の “And the Mountains Echoed” (3)

 「待ちに待った Hosseini の新作にしてはそれほどでもない」。「もっともっと楽しませてくれてもよかったのに!」
 ……とぼくが思った理由は、おとといのレビューにまとめたつもりである。それが「当初、読みはじめるとすぐに眠くな」った理由でもあり、簡単に言うと、どこかで読んだことのあるような話だな、と思ったからだ。
 たしかに家族の「別離の悲しさ、愛情の深さが結晶化された場面には胸をえぐられる」。が、そういう家族愛がテーマの小説なら、べつに数えたわけではないが、いまや5作に1作くらいの割合で出くわしているのではないか。いや、もっと多いかもしれない。
 たまたま本書の前に読んだ今年の Women's Prize for Fiction の受賞作、A. M. Homes の "May We Be Forgiven" にしても、大ざっぱに言えば〈家族小説〉である。同書もぼくの評価はおなじく☆☆☆★★★だったが、「まことに奇妙な人間関係からなる珍無類の悲喜劇」ということで、好みとしてはあちらのほうがゴヒイキだ。
 あとひとつ気になったのは、Hosseini が極力、政治色の薄い小説を書こうとしているのではないか、と思えてならなかった点である。ぼくは本来、プロパガンダ小説が大嫌いであり、最近、そういう匂いのする一部の(と思いたい)○○系作家の作品には失望することが多いのだが、アフガニスタンの場合、激動の現代史の流れを無視して文学活動に従事することは不可能なのではないか。
 むろん、Hosseini は「無視して」いるわけではない。それどころか、本書には歴史的背景や政治情勢を巧妙に取り入れたエピソードもある。が一方、タリバンや米軍の問題など、明らかにうまく避けているとしか思えないフシもある。
 その結果、「政治体制のいかんにかかわらず、……個人として心に深い傷を負う一方、家族との結びつきを確認しながら生きつづける」人間の姿を描いた作品に仕上がっているのは大いに結構なのだけれど、反面、人びとが歴史や政治に翻弄される要素が薄いぶんだけ小さくまとまってしまった。それゆえ、「どこかで読んだことのあるような話だな、と思」われるのである。
 前作 "A Thousand Splendid Suns" の場合はどうだったか。「何よりも感動的なのは、戦乱の続く激動のアフガニスタンを舞台に、女性たちが想像を絶する困難に出会いながらも、不屈の意志で愛する人々とともに生き、そのために生きようとする真剣な姿だ」。
 ……昔のレビューの一節だが、ひるがえって、"And the Mountains Echoed" の〈感動指数〉はイマイチなのではないでしょうか。