ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Klingsor's Last Summer" 雑感 (3)

 巻頭の "A Child's Heart" だが、ストーリーそのものは、まあ、どうってことはない。要するに、「子供が親にウソをついてバレる話」である。
 その中心にすえられているのが「無垢と経験」という、これまた青春小説としてはありきたりのテーマなのだ。それゆえ、この短編を Golding や Graham Greene、Steinbeck などの名作とくらべると、(Greene は別として) 長編と短編の比較、つまり〈異種格闘技バトル〉という点を考慮にいれても、やはり「ヘッセの旗色は悪い」と言わざるをえない。
 しかし、それでも読む価値は十分にある作品だと思う。ひとつには、「どうってことはない」「ありきたりのテーマ」ながらサスペンスの盛り上げがうまく、わりとストレートに物語が心に響いてくる。前回ふれたように、大人の視点から少年の心理を分析することにより、単純な物語に客観性と説得力、さらには適度の変化が生まれている。
 だが、本編で最もすぐれているのは、その「経験」の内容である。少年は事件を通じてこんなことを学んだのだ。
Perhaps for the first time in my life I felt, almost to the verge of understanding and consciousness, how utterly two well-intentioned human beings can torment each other, and how in such a case all talk, all attempts at wisdom, all reason merely adds another dose of poison, creates new tortures, new wounds, new errors. How was that possible? But it was possible, it was happening. It was absurd, it was crazy, it was ridiculous and desperate―but it was so. (p.42) 
 これは大変な「経験」である。本来なら今からすぐに掘り下げて論じたいところだが、再開後の本ブログは「ボチボチ」と決めているので今日はおしまい。
(写真は、足摺宇和海国立公園にある篠山。頂上からの展望がすばらしいそうだ)。