ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Andre Alexis の “Fifteen Dogs” (2)

 動物が主人公の小説はたくさんあるはずだが、ぼくがパッと思い出すのはもちろん、George Orwell の "Animal Farm"。あれ以上の名作があるとはちょっと考えられない。名作のゆえんは、人間性にかかわる苦い真実がわかりやすく、おもしろく描かれているからだ。
 同書を最後に読んだのはざっと30年前くらい、いやもっと前か。細部はとうに忘れている。念のため、Penguin 版の裏表紙にある紹介記事を引用しておこう。'First published in 1945, Animal Farm has become the classic political fable of the twentieth century. Adding his own brand of pignancy and wit, George Orwell tells the story of a revolution among animals of a farm, and how idealism was betrayed by power, corruption and lies.'
 周知のごとくロシア革命が背景にあり、スターリントロツキーを思わせる動物も登場するなど、たしかに 'political fable' である。が、もしそれだけなら旧ソ連が崩壊した現在、読む価値はほとんどないかもしれない。
 重要なのは 'how idealism was betrayed....' だ。「裏切られた」というより必然的にそうならざるをえなかった、というほうが正しい。人間には能力差があり、それゆえ人は指導する者とされる者におのずと分かれる。指導者は権力を、なかんずく自分の理想を実現する権力を握るが、その理想とはべつの理想を掲げる人間と対立し、その過程で間違った権力の使い方をする。絶対的な権力は絶対的に腐敗する。独裁者の登場を招くのは指導される者、愚かな大衆である。などなど、出版当時の政治状況のみならず、21世紀の現代にも当てはまる苦い真実が同書にはちりばめられている。だからこそ不朽の名作なのだ。
 こんな作品が書かれてしまうと、後世の作家は仕事がやりにくくなる。どうしても比較されてしまうからだ。読む側としても比較せざるをえない。
 さて、本書の眼目は次のくだりにあると思う。'Once the pack had rid itself of threats to this ideal [old ways: no strange language, no twisting thoughts, the senses alive] ― once they had killed or chased off Majnoun, Athena, Bella, Prince and Bobbie ― Atticus was satisfied that they could live as dogs ought to live. In the aftermath of the cleansing, the pack followed Atticus's percepts: 1. No strange talk. .... 2. A strong leader (that is, Atticus himself) 3. A good den 4. The weak in their proper place' (p.81)
 これを書き写しているうちに、ああ 'Animal Farm' の二番煎じだな、という気がしてきた。上の大ざっぱな同書の内容と重なる部分が多いからだ。
 が、美点もある。人間の知性を授かった犬たちは人間の言葉を話し、人間の思考でものを考えるようになる。その結果、正邪善悪の観念をもち、おのれの正義に従わぬ者を排除し、その殺戮を 'cleansing' として正当化する。そこに人間と動物の違い、人間の人間であるゆえんが読み取れる。この点を評価したい。
(写真は、宇和島市来村(くのむら)川の河口岸にある旧海軍航空隊予科練跡の記念碑。亡父は神風特攻隊員で、出撃命令が下っていたが終戦で命びろいした、という話を父の死後に知った)。